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後日談 『おしおきー66』
「その件は、あんたにこれっぽっちも罪はねえよ、貴弘さん。頭をあげてくれ。一生罪を背負ってなんか生きなくていいんだ。苦しいのはあんたも同じだろ。もしどうしても気がすまねえっていうんなら、秋音の存在を許して認めてやってくれ。それだけでいい」
貴弘は顔をあげ、暁をまっすぐに見つめた。暁は穏やかに微笑んで頷く。
「そうか。今の君は秋音ではなく、早瀬暁くんなんだな。もちろん、秋音の存在は認めているよ。彼は私の大切な弟だ」
「そっか。あんたにそう言ってもらえたら、秋音もほっとするよ」
貴弘は、今度は雅紀に視線を移し
「篠宮くん。君にも改めて謝罪させてくれ。私の一方的な思い込みで、君をいろいろと苦しめて傷つけてしまった。総一のやったことも、元はと言えば、私が全ての原因だ。本当に申し訳なかった」
また深々と頭をさげる貴弘に、雅紀は慌てて首を振り
「そのことはもう大丈夫。俺はもう気にしてません。だから貴弘さん、頭をあげてください」
きっぱりとそう言って微笑む雅紀の顔を、貴弘は眩しそうに見つめて
「君は今、幸せなんだな。いい顔をしている。その笑顔を見れただけで安心したよ」
「うん。貴弘さんと約束したから。だから俺、もっともっと幸せになれるよう頑張ります」
「そうか」
貴弘は顔の強ばりをといて、安堵の笑みを浮かべた。
家政婦がタイミングを見計らって、紅茶のカップとケーキをテーブルに置いていく。
「さ。寛いでくれ。篠宮くん、君は甘いものが好きだろう? お口に合うかどうか分からないが、会社の近くのケーキ屋でね、一番人気があるというロールケーキなんだよ」
大胡の言葉に、雅紀は頬を緩ませ、目の前に置かれたケーキを、目を輝かせて見つめた。
「わ……美味しそうっ。これってテレビでも話題になってたやつですよね」
「そうみたいだな。さ、遠慮はいらないよ。食べてくれ」
雅紀は嬉しそうに頷いて、フォークを手に取ると頂きますをしてから、ひと口切り取って口に入れ、ほわん……と幸せそうな顔になる。
「うわ。美味しいっ。これ、もっちもちでふわっふわです」
雅紀の素直な反応に、一気に場の雰囲気が和んだ。
こういう時、雅紀の朗らかで優しい存在感って貴重なんだよなぁ……と、暁はしみじみ思っていた。大胡と貴弘の顔を見ると、2人も同じことを感じているようだ。
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