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後日談 『おしおきー69』

「もともと、君の発案だったそうだね。本当に感謝している。最初、父から話を聞いた時は、正直複雑な心境だったんだがな」 「まあ、そりゃそうでしょうね。俺が逆の立場なら、やっぱ複雑だろうなって素直に思いますよ」 けろっとした顔でそう言って笑う暁に、貴弘は苦笑して 「君は……相変わらずの男だな。だが、そんな君だからこそ、だったんだろうな」 貴弘はちらっと雅紀の方を見た。雅紀はまだ話の先がどこへ行くのか分からず、きょとんとしたままだ。 「君のご厚意はありがたく受けることにしたよ。実際、社の状況は切迫していてね、なりふり構っている場合じゃなかった。それに私自身にまだわだかまりがあって、君の折角のアイディアを拒絶したなどと、思われるのも心外だったしな」 「でしょうね。貴方はそんな了見の狭い男じゃないって、俺は思ってましたよ」 貴弘と暁は、互いににやりと笑い合う。さっきまで温かい穏やかな雰囲気だったのに、急に雲行きが怪しくなってきた。雅紀は不安そうに2人をきょときょとと見比べている。 「それでだ。こちらが軌道に乗り始めたからね、私にもひとつ、アイディアが浮かんだんだ。聞いてくれるかな?」 「もちろんお聞きしますよ。ただ、門外漢の俺が聞いても分かるようにお願いします」 「君は我社に投資目的で資産を投入してくれた。増資すれば当面は株価が下落する。だが、新規事業が成功して収益があがれば、当然、本社の経営も立て直し出来るし、父も私もその為に今必死で動いている。近い将来、我社は新規事業を基軸として、新しいビジネスを展開する予定だ。まだ確定ではないが、私には手応えがある。余程のしくじりがない限り、それは成功するだろう。傾きかけた本社を立て直すどころか、更に大きくすることが出来ると確信している」 「それはまた……すげえ自信だな」 ひゅ~っと口笛を鳴らす暁に、貴弘は余裕の笑みで頷いて 「うちには長い社歴と信頼のおける人材と、培ってきたノウハウがある。ぽっと出の新興企業ではないからね。父が先代先々代から受け継いだ、人脈と実績もだ。だが、今ぐらつきを恐れて保身に回れば、せっかくの宝も持ち腐れとなる。だからここは大きく打って出るつもりだ。祖父の遺産を生き金にする為にも、それを投じてくれた弟の為にも、私は絶対に成功させてみせる」 言うことはかなりデカいが、貴弘の目はいたって冷静沈着だ。自分の言葉に酔うような危うさもなく、さえざえとした理知的な眼差しで、しっかりと暁を見つめている。 なるほど、貴弘に桐島の血は流れてはいないが、父大胡の教育は血以上のものを彼に継がせているらしい。

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