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後日談 『おしおきー70』
暁はふ……っと微笑んで、黙って見守る大胡に目を向けた。大胡は誇らしげな様子で、貴弘に優しい眼差しを向けていた。外見も似ていないはずの2人に、確かに感じる親子の絆。
それは秋音が生涯持つことの出来ないものだ。
胸の奥でざわめくこれは、きっと秋音の心だろう。今日は表に出ているのが自分の方でよかったかもしれない。暁は込み上げるせつなさをそっと飲み込んで、もう1度貴弘を見据えた。
「それで……今の話がさっきの相談とやらに、どう繋がっていくんです?」
「前置きが長くなってしまったな。そろそろ本題に入ろう」
貴弘は紅茶をひと口飲むと、大胡の方をちらっと見てから、暁と雅紀に向き直り、居住いを正した。
「私から君たちに、2つの提案がある」
「2つ?」
「そうだ。どちらを選んでくれてもいいし、もちろんどちらも選ばないという選択肢もある。これは私の考えで、父も賛成してくれてはいるが、君たちに強要するつもりはまったくない」
暁は隣の雅紀と顔を見合わせた。雅紀は酷く緊張した面持ちだ。
「君たちの未来への提案だ。暁くん。君は秋音と2つの人格を共有して生きていくことに決めたそうだね」
「あ……ああ、まあ、俺が決めたっつうより、消えようとしたら、秋音と雅紀にめっちゃ怒られたっつうか……」
歯切れの悪い暁の言い方に、雅紀はむーっとしかめっ面をして暁を睨みつけた。雅紀の怖い顔に暁はたじたじとなり、へらっと誤魔化し笑いをして首を竦める。
……まったく……見せつけてくれるな。
貴弘は内心ため息をつきながら、
「まあ、その辺の経緯については、3人で仲良く話し合ってくれ。で、俺の提案だが、暁くんと秋音の今後の仕事についてだ。君たちは今の探偵の仕事を、ずっと続けるつもりではないそうだな」
「まあ、そうですね。いずれ他の見通しがつけば……とは思ってますよ」
「だったら、秋音は建築デザイン関係の会社を立ち上げてみる気はないかな?」
貴弘の言葉に暁は眉をひそめた。
「や。あんた、すげえ簡単に言うけどな、それは……」
「もちろん、何の実績も経験値もない人間が、いきなり会社を興しても経営は難しい。最初の数年は、うちの新規事業部門で経験を積み、実績をあげていくことになる」
暁はますます難しい表情になり、腕を組んで考え込んだ。
「……それは……要するに、あんたの会社に秋音をってことだよな」
「そういうことになるね。まずはうちで働いてもらう。いや、もちろん、うちの社員としてでなくても構わないんだ。彼自身の会社を立ち上げた上で、うちと専属契約する形でもいい。我が社には豊富な人脈がある。秋音がどんな形での起業を考えたとしても、それを全面的にバックアップ出来るだろう」
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