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後日談 『おしおきー71』
暁は腕を組んだまま、黙り込んだ。しばらくの間、息詰まるような沈黙がリビングを支配する。雅紀ははらはらしながら、暁と貴弘の様子をじっと見守っていた。
やがて、暁は顔をあげて貴弘を真っ直ぐに見つめ
「あんた、2つって言ったよな? もうひとつの案も聞かせてくれ」
「ああ。もうひとつは、君への提案だ。店をやってみないか?」
「….…は? 店?」
「そうだ。君は料理や菓子作りが趣味だそうだな。実はうちの大口の取引先で、テーマパークと複合型商業施設の案件があがっている。まだ計画段階だが、話が決まれば、うちの新規事業部門では最初の大きなプロジェクトになる。そこに、君と雅紀で企画した飲食系の店を出してみるんだよ」
暁はちょっと呆気に取られたような顔になり、苦笑いした。
「そっちはまた……随分と突飛な話じゃねえか? 俺の料理や菓子作りなんて、まるっきり趣味の領域だぜ。んな壮大なスケールの事業展開に、便乗出来るレベルじゃねえっての」
貴弘は余裕の笑みを浮かべて
「たしかに、成功するかどうかは、まったくの未知数だ。だが、やってみなければ分からないだろう? もちろん、こちらの提案にも、うちの会社は万全のバックアップ体制を用意するつもりだ。君や秋音、雅紀くんにも、企画段階から参加してもらって、やるからには徹底的に、売れる店を目指して欲しい」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれよ」
流石に我慢の限界なのか、暁は手を突き出し、貴弘の言葉を遮った。はぁ~っと盛大にため息をついて
「無茶言いなさんなって。よくそんな途方もないことを思いつくよな、あんた。悪いが2つとも却下だ。んなの秋音に相談するまでもねえぜ」
暁のイライラした声に、雅紀はきゅっと首を竦めた。でも貴弘はまったく動じる様子もなく、不思議そうに首を傾げて
「どうしてだい? 私の案のどこがそんなに気にいらない?」
「どこが気にいらないも何もねえだろ。どっちもダメダメだ。それが分からねえって言うんなら、やっぱりあんたとは話になんねえぜ」
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