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後日談 『おしおきー72』
「話にならない……か。じゃあ、君の意見を聞かせてくれ。私は何が分かっていない?」
暁は鷹揚に構える貴弘の顔を、探るように見つめて片眉をあげ
「まずは秋音の案だ。たしかにあいつは前の会社の社長からも、その業界での才能を惜しまれてる。だから起業するってことには、俺も反対じゃねえよ。だがな。それをやるにしても、貴弘さん、あんたの傘下に入って……ってのはねえな。秋音はあんたたちの会社には一切関わらないって条件で、遺産をまんまそっちに流しただけだ。その辺の秋音の気持ちは、あんたらにも分かってもらえてるって思ってたぜ?」
「……なるほど。たしかにそうだな。では、君への提案の方はどうだい?」
暁は首を竦めて苦笑いして
「そっちは、話が飛躍し過ぎだろ。将来的に、俺もそっち方面のことを考えてない訳じゃねえよ。たださ、店やるにしても、秋音や雅紀と相談した上で、俺たち自身の力と努力で分相応なものをやりてえよな。テーマパークだの複合商業施設だの、そんなのは話がデカ過ぎるっての」
きょときょとと、暁と貴弘の顔を見比べて、どんどん不安な表情になっていく雅紀の様子に、向かいの大胡が、暁に目配せをした。暁はちらっと雅紀の方を見て、泡立つ心を落ち着かせるようにそっと深呼吸してから、雅紀の手に自分の手を重ねた。
貴弘が急にこんなバカげたことを言い出した、その真意が分からない。せっかく見直しかけていた彼への評価が、自分の中で駄々下がりだ。
こういう事態を恐れて、秋音は遺産の相続に二の足を踏んでいたのだ。
貴弘はともかくとして、よき理解者で人格者であるはずの大胡が、静観しているのも腑に落ちない。
雅紀の手をぎゅっぎゅっと握っているうちに、少し頭が冷えてきた。
……いやいや。落ち着けよ。よく考えてみろ。もしかしてこの話は……。
雅紀がぎゅっぎゅっと手を握り返してくれた。こいつを心配させないようにしているつもりが、安心を与えてもらえているのは、自分の方かもしれない。
貴弘が大胡と顔を合わせた。大胡が穏やかに微笑んで頷くのを見て、暁ははっとした。やはりこの話はきっと額面通りではないのだ。
「そうか。どちらの提案も受けてはもらえないんだな。では残念だが2つとも引っ込めよう。気分を害してしまったのなら悪かった。ただ……」
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