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後日談 『おしおきー73』
貴弘は両手を胸の前で組んで、暁と雅紀に交互に視線を送ると
「私の気持ちも分かって欲しい。父や君たちがどんなに認めてくれても、私に桐島家の後継者としての血が流れていない事実は変えられない。卑下するつもりも拗ねてるわけでもなく……な。
そんな私が父に息子として認められて、会社の存続を託された。私は自分の一生を賭けても、託された命題に取り組みたいと思っている。絶対に成功させてみせる。
そう誓った矢先に、父の実の息子の秋音が、当然相続するはずの遺産を、実質は相続せずに全額我が社に投入してくれた。融資を受けられない状態が続いて、本当に切羽詰っていたからね。ありがたいとは思っている。救われたと……感謝もしている。でもね、その感謝の気持ちと私個人の感情は別物なんだ」
「……それは……」
貴弘はちょっと自嘲気味に笑ってみせて
「小さい男だと笑ってくれていい。私は……悔しかったんだ。君たちの思いを素直に受け容れられない、自分の心の狭さが苦しい。秋音にだけは負けたくない、そう思ってしまう自分の心の卑しさがね」
……ああ……そうか……そうだよな…。
貴弘の言葉が、自分の中ですとんと腑に落ちた。そのことは、投資を考えた時点から危惧はしていたのだ。
貴弘は決してバカじゃない。雅紀の件でとち狂っていた時を除けば、思慮分別のある、恐らくは企業人としても優秀な男だ。だからこそ、大胡は彼を信頼して、桐島家の未来を全て託したのだ。
だが、聡くて優秀な男だからこそ、投資の名目でも、実際は完全な援助という形になっている今回の遺産の件を、何も知らないフリをして受け止めるのは……苦しいのだろう。
当然といえば当然のことだ。
貴弘のプライドを傷つけないように……そう配慮したつもりでも、貴弘にはやはり辛かったのだ。
暁はふっと肩の力を抜き
「分かったよ。あんたの言いたいことはよーく分かるぜ。小さい男だとか思ったりしねえし、笑ったりなんかするわけねえさ。逆に俺はあんたをもういっぺん見直したぜ。あんたはやっぱり、大胡さんの信頼を得るに相応しい男だなーってさ」
暁の言葉に、貴弘はほっとしたように顔の強ばりをといた。横ではらはら見守っていた雅紀も、ようやく緊張から解放されて、ふんわりと嬉しそうに微笑んだ。
「で。あんたの本当の提案を聞かせてくれねえか? 駆け引きは一切なしだ。本気の本音で、あんた、俺たちに何を望む?」
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