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後日談 『おしおきー74』

貴弘はゆっくりと頷くと 「秋音に、うちからの出資を受けて貰いたい。もちろん、今すぐじゃなくていいんだ。会社を立ち上げるにしても、店を始めるにしても、どのみち、君たちには元手となる資金が必要になるだろう? 他から融資を受ける前に、私にその資金を用意させてもらいたいんだ」 ……なるほど……な。やっぱりそういうことか。 さっきの傲慢とも取れるような突飛な提案は、この出資の話を出す為の布石だったのか。 たしかに、最初から今の話を出されたら、秋音の心情を考えて、俺はあっさりと断っていただろう。貴弘はそれが分かっていたからこそ、あんな回りくどい提案をしたわけだ。 俺たちが貴弘のプライドを傷つけないように……と考えたのと同じように、貴弘もまた、秋音の気持ちを正確に理解し、配慮してくれている。 暁はちらっと大胡の顔を見た。思慮深い穏やかな眼差しと目が合う。 返事をしようと暁が口を開きかけた時、雅紀が身を乗り出した。 「つまりそれって、おあいこでってことですよね? 貴弘さんだけ助けてもらうのは不公平だから、俺たちも助けてもらうってことでしょ?」 雅紀の単刀直入な言い方に、貴弘はちょっとたじたじとなり 「あ……ああ……そうだな。平たく言えばそういうことになる……かな」 雅紀はにっこり笑って 「あぁ、よかったぁ。俺どうなっちゃうのかって思ったし。貴弘さんと暁さん、喧嘩しちゃうのかなって。でも、おあいこだったら問題ないですよね。ね?暁さん」 雅紀の柔らかいが素直な言葉が、部屋の中の重苦しい空気を一気に吹き飛ばした。暁は思わず苦笑して 「そうだな。簡単に言っちまえば、そういうことだよな」 雅紀はまた、ふわんと嬉しそうに微笑んで 「ね。貴弘さん。今のお話、返事はすぐじゃなくてもいいですか?」 「ああ、もちろんだよ。ゆっくり考えてくれていい」 雅紀は頷くと、暁の顔を下から覗き込んだ。暁は手を伸ばして、雅紀の頭をくしゃっと撫でると 「了解だ。今の話、秋音と相談した上で、改めて返事させてもらうぜ」 「ありがとう。いい返事を期待しているよ。時間を取らせてしまって悪かったな。それじゃ、私はこれで失礼する」 そう言って貴弘が立ち上がる。雅紀は慌てて腰をあげて 「え……もう帰っちゃうんですか? せっかくだから、このまま一緒に夜ご飯食べて……」 貴弘は優しく微笑んで首を振り 「いや。残念だが、今日はこれから人と会う約束があるんだ。また日を改めて、夕食をご一緒させてもらうよ。……ありがとう……篠宮くん」 貴弘はそう言って、大胡と暁に頭をさげ、リビングを出て行った。

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