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後日談 『おしおきー75』

貴弘との話し合いの後、暁は秋音と出資の件について、数日かけて検討し合った。 貴弘の出資の話を受けることについては、暁も秋音も異存はなかった。雅紀の言う通り、要するにおあいこなのだ。お互いにその方が気持ちが楽になるのであれば、拒絶する理由はない。 検討に数日かかったのは、具体的にどの方向に進むか、についてだった。暁は、秋音の得意分野を活かして建築デザインの会社を立ちあげればいいと主張し、秋音は、暁の趣味と特技を活かして店を始めればいいと言い張り、どちらもなかなか譲らなかった。 「んーとな。そこであんまりかき混ぜると、粘りが出ちまって焼いた時に固くなるんだ」 暁は雅紀の手からヘラを受け取って、ボウルを少し斜めにし、下から掬い上げるように材料をふうわりと混ぜてみせる。雅紀は真剣な表情で暁の手元をじーっと見つめていた。 「どうだ、分かるか? さっきとの違いがさ」 「……うん。やってみる」 雅紀はヘラを受け取ると、暁がやってくれたように、材料をかき混ぜてみた。 「そうそう、そんな感じだ。ざっくりふんわりな。パウンドケーキは多少粉っぽさが残ってもいいんだよ。捏ねくり回して、粘りが出ちまわねえようにな。うん、上手いぜ。よし、いったんストップ。んじゃさ、このチョコチップとアーモンドプラリネを混ぜ込んで」 暁は用意していた副材をボウルに投入すると、もう一度ざっくりと混ぜ 「よし。んじゃ、ペーパー敷いといた型に、生地を流し込むぜ」 もったりとした生地を型に平らに流し込み、オーブンでローストしておいたアーモンドスライスを満遍なく散らす。 「OK。んじゃさ、型をこんぐらいまで持ち上げて、台に2~3度落とすぜ。余計な空気抜いて、生地を平らにしてやるんだ」 雅紀はきゅっと唇を引き結び、暁の指示通りに空気を抜いた。 「はいっ出来たっ」 「ん~いいねぇ。手つきがさ、すっげープロっぽくなってきたよな。やっぱおまえ、お菓子作り向いてるぜ。上手い上手い」 暁は満足そうに目を細めて、雅紀の頭をいいこいいこすると、さらに、ほっぺにちゅっとした。雅紀は恥ずかしそうに首を竦めて 「もぉ。暁さん言い過ぎ。しかも、どさくさでちゅうするし……」 暁は途端にデレっとした顔になり 「だってさー。おまえ可愛いし。すっげー真剣な顔して材料混ぜてる表情とか、んもぉ~食っちまいたくなるくらい可愛いっての」 「や。食われるのはやだから」

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