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蒼いかけら3
ちょっと緊張しながら、まさきが喫煙ルームの扉を開けると、ソファーに座っていたあきらが、微笑んで手をあげる。その笑顔にほっとして
「ごめんなさい。待たせちゃって……」
「いーや。それより俺の方こそ、付き合わせちまって悪かったな」
くいくいっと自分の横を指差すあきらに、まさきは頷いて隣に腰をおろすと、ポケットから煙草を取り出してくわえ、ライターで火をつける。
「メシさ。ここの上じゃなくてもいいか?」
「え?」
「いや。なんつーの?ホテルのレストランって、なんか堅苦しいだろ。なんとなく今日はそんな気分じゃなくなったっつーか。や、ここの上って誘ったの、俺なんだけどな」
なんだかしどろもどろなあきらに、まさきは小首をかしげ、
「俺は、あきらさんとメシ食えるなら、どこでもいいですよ?堅苦しいのが嫌なら、居酒屋でもファミレスでも、ほんとどこでも」
あきらは一瞬固まって、まさきの顔をまじまじ見てから、何故か照れたように目をそらし
「そっか。あ……じゃあ」
「ね、あきらさん、ごめんなさい。俺、うっかり忘れてたんだけど、明日朝イチで大事な会議があって、家に帰ったら、その資料作りしなきゃいけないんです」
「えっ…そうなのか」
「うん。だからちょっと早めに帰りたい」
「じゃあメシは……」
「だから悪いんですけど、ゆっくり食事はまた別の機会にして、ラーメン……食べて帰りません?」
「ラーメン?」
「駅前大通りの『さんたんげん』……知ってます?」
「ああ」
「会社帰りにたまに行くんです。俺。あそこの特味噌ラーメンと餃子、大好きで。あきらさん、ラーメンは嫌い?」
「ははっ日本人でラーメン嫌いなヤツって珍しいだろ。もちろん俺も好きだよ。『さんたんげん』は行ったことないけど、美味いって噂は聞いたことある」
まさきは嬉しそうに笑って
「あっ、じゃあ行ってみません?やった~。ようやくあきらさんに教えられること、発見」
「ん?」
「だって。あきらさん何でも知ってるし、昨日から俺、教えてもらってばっかで……。やっと俺の方が先輩です」
ちょっと得意気に胸を張る、まさきの笑顔が妙に眩しくて、あきらは2.3度まばたきした。手を伸ばして、嫌がられないようにそっと頭を撫でる。
「おーし、んじゃ、ご案内頂けますか?まさき先輩」
「なんかそれ……嫌味っぽい…」
「おい……素直に受けとれよ」
「あきらさん。お仕事、探偵さん?」
カウンターに並んで座り、運ばれてきた特味噌ラーメンを、はふはふしながら食べ始めたあきらに、まさきは餃子を箸でつまみながら、そっと聞いてみる。
「ん?んあー……探偵、つーか何でも屋?」
「……何でも屋さん?」
「そ。ドラマに出てくるような格好いい探偵とかじゃねーよ。お困り事なんでもやりますの何でも屋。……なぁこれ、もやしの量がはんぱねえな。麺出てくる前に、腹いっぱいになるかと思った」
まさきは餃子を頬張り、笑いながら頷いて
「あはったしかに。俺初めて食った時、もしかして麺入れ忘れてんじゃないの?って、もやしかき分けて探したもん」
「何の罰ゲームだよ。それ」
まさきはくすくす笑いながら、ようやくもやしの間から見えてきた麺を箸ですくった。
「でもこのもやし、普通のより細めでシャキシャキしてて、噛むと甘いでしょ。俺、好きなんですよ~、これが」
「うん、いいな。中に隠れてる肉味噌が味濃いから、ちょうどいい感じだな」
あきらは、その肉味噌を崩しながら麺に絡めて豪快にすする。
「……早瀬さんっていうんだ」
「そ。早瀬あきら。……そういやお互い、自己紹介まだだっけ」
「うん。ものすごーく今更な感じですけどね」
「おまえは、篠宮……篠宮まさき、な」
「うん。……あのね、あきらさん。さっきは……ごめんなさい」
あきらは箸を止め、まさきの方をちらっと見て
「何の、ごめんなさいだよ?」
「……桐島さん。なんかすごくやな態度だったでしょ?」
「……それ、まさきが謝ることじゃね~じゃん」
「うん……そうなんだけど。あの人いつもはあんな感じじゃないから。…き…っと奥さんのこととかで、苛々してたのかな~って」
「だとしたら、それはあいつ自身の問題で、尚更おまえ関係ねえよ。麺、のびちまうぞ~。いいから食え」
「うん」
再び食べ始めたまさきを横目で見ながら、あきらは餃子を口に放り込み
「俺の方こそ、悪かったよ。苛ついて、おまえに八つ当たりした感じになってさ」
「ううん。あんな言い方されたら頭くるの当然だし。あきらさんは悪くないから」
「んじゃさ、悪いのは桐島ってことで、謝りっこは終了な。ほれ、また箸がお留守だから、おまえ。麺が2倍になっちまうって」
あきらに促されて、まさきは慌てて、またラーメンと格闘し始める。そうしてしばらくの間、2人とも、黙々と食べ続けた。
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