442 / 606
後日談 『おしおきー78』
……格好いいなぁ……暁さんって。何やっても、ほんっと様になってるし……。
暁がカメラを構えている時のきりっとした表情が好きだ。
お菓子を作ってる時の優しい目元も、こうして何かに集中してる時の真剣な眼差しも、ちょっと疲れた顔をして、ぼんやり煙草をふかしている時の顔も。
……うわぁ……。俺って暁さんのこと、好き過ぎるだろ。
じわじわと勝手に熱を持ち始めた頬を、雅紀は慌てて押さえた。
「……おまえさ、何ニヤケてんだ?」
暁に顔を覗き込まれて、雅紀は慌ててつーんとそっぽを向いた。
「っ。ニヤケてないしっ」
暁は不思議そうに首を傾げたが、それ以上は突っ込まず、丁寧にドリップしたコーヒーをお湯で温めたカップに注いで、トレーに乗せてリビングに移動した。雅紀も慌てて後を追う。
「なあ、雅紀。お菓子作るの、好きか?」
ダイニングテーブルで、コーヒーを飲みながら、レシピノートにさっきのパウンドケーキの作り方とコツをメモしている雅紀に、暁は穏やかに問いかけた。雅紀は顔をあげ、幸せそうに微笑んで
「うん。好き。だって俺、自分は不器用でこんなの作ったり出来ないって思い込んでたから……。ちゃんと美味しいのが焼けて、みんなに喜んでもらえるのって、すっごい嬉しい」
「だよなー。おまえ、事務所のみんなが食べてるの、いつもめっちゃ幸せそうに見てるもんなぁ」
雅紀はちょっと照れたように、手元のコーヒーカップに目を落とす。
「俺、もじ丸のおばさんとか、憧れなんです。食べた人を幸せにしてくれるお料理、作れるから。俺もそんな風に他の人を幸せにしたい。あ。料理とかじゃなくても、何でもいいんですけどね」
……俺はおまえがそうやって幸せそうに笑ってる顔見てるだけで、めっちゃ幸せだけどな。
自己の存在価値を否定して生きるしかなかったのだろう、雅紀のこれまでの人生は。
他人の勝手な思惑や押し付けや執着に、振り回され続けた過去だった。
もっと早く、雅紀の良さを認めてくれて、大切にしてくれる相手に出逢えていたら、この愛すべき青年は、まったく違う人生を送れていたはずなのだ。
俺と秋音は絶対に間違えない。
間違えたくない。
押し付けではなく、こいつが素のまんまの自分で伸び伸びと生きていけるように、共に生きる道を探したい。
「んーとさ。新婚旅行。やり直しに行くか」
「……へ?」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




