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後日談 『おしおきー81』

これが、旅行に出る前に、暁が拗ねて出て来なくなった顛末だった。 ただ、表には出て来なかったが、暁は自分の考えを秋音に伝え、秋音はそれを田澤と大胡に相談した。 大胡は秋音と暁の出した結論をとても喜んでくれて、出来る限りの応援をすると言ってくれた。貴弘にも連絡して、先日の出資の件を受けたいと告げた。貴弘はほっとした様子で、土地や建物、機材や仕入れにかかる初期費用を、まずは全額準備してくれると約束してくれた。 その後、田澤に彼の人脈を使って、物件探しを手伝ってもらった。最初から大きな店は望んでいない。まずは自分たちの出来る範囲でいい。 海沿いの広めの土地に建つ小さな古い空き家を、中古で購入することに決めて、具体的な改装や店の経営のプランは、旅行から帰って、雅紀とよく相談してから決めることにした。 雅紀に結論を内緒にしたのは、サプライズのつもりもあったが、藤堂のもとに戻らないという結論に、雅紀が自分のせいだと心の負担を感じないように、いろいろと根回ししておきたかったのもある。雅紀に不安を感じさせない為には、秋音と暁の両方の本気度をしっかり伝えてやる必要があった。 全ての準備は整った。後は、旅の終わりに、もう1度改めて雅紀にプロポーズする。雅紀に自分たちの思いをきちんと伝えて、向こうに帰ったら、新しい生活に向けての忙しい日々が待っているのだ。 田澤から指示された山形と秋田での仕事を無事に終えて、暁と雅紀は再び仙台に戻ってきた。 藤堂にお土産を渡して、駅前をぶらぶらしてから、18時頃の新幹線で向こうに帰る予定だ。 藤堂に電話すると、仕事は休みでマンションにいるというので、2人はまず彼のマンションを訪ねた。 ドアベルを鳴らすと、2~3分待たされて、何故か焦ったような表情の藤堂が顔を出した。 「お待たせして申し訳ない。君たちが連絡をくれたすぐ後に、急に来客があったんだ」 珍しく酷く動揺したような藤堂の様子に、暁は首を傾げた。足元を見ると、確かに藤堂のものとは思えない華奢なデザインの靴がある。 「や。俺たちはお土産渡しに来ただけだから、すぐに帰りますよ」 「いや、いいんだ。大丈夫だよ。あがってくれ」 暁が何か言おうとすると、奥のリビングに通じるドアが開いて、男が顔を出した。 「兄さん。お客さんなら俺の方が帰るから、あがってもらえば?」

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