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後日談 『おしおきー84』

雅紀の目が潤み始める。 暁は立ち上がって雅紀の方に行くと、隣に座って雅紀の手を取った。ポケットから小さなケースを取り出し、ぱかっと開けてみせる。 雅紀ははっと目を見開き、暁の手の中のケースを見つめた。 「……暁さん……これ……」 「たいしたもんじゃねえよ。でもさ、俺たちの婚約の証だ」 ケースの中には、大きさの違うシンプルな指輪が2つ並んでいる。 見つめる雅紀の目から、涙がぽろんと零れ落ちた。 暁はそっと細い方のリングを取り上げ、雅紀の指にはめた。雅紀はくすんくすんと鼻をすすりながら、太い方のリングを暁の指にはめる。 ……おまえの涙は綺麗過ぎて、俺はやっぱ苦手なんだ。でも、こんな幸せそうな涙だったらさ、たまには泣き顔もいいかもしれねえな。 お互いにリングをはめた手のひらを合わせる。大きなごつい俺の手と、ほっそりとした長い雅紀の手。 重なる温もりの優しさが、こんなにも嬉しくて愛おしい。 店員が入ってこないか、ちらっとふすまを確かめてから、暁はぐいっと雅紀を引き寄せ、零れ落ちる涙を唇でそっと吸った。 雅紀はくすぐったそうに身じろぎして、暁の顔を泣き笑いの表情で見上げる。 「愛してるぜ、雅紀」 「……っ俺、も、愛してる」 暁は、ぐすんぐすん言ってるその唇にそっと口づけた。甘い優しいキスに、雅紀がくぅっと甘えた吐息を漏らす。 暁は唇を離して、雅紀の真っ赤に充血した目を見つめた。 「でな。俺たちと一緒にさ。おまえに店をやって欲しいんだ」 「……お店」 「ああ。場所はもう田澤社長のツテで見つけてる。○○の海沿いのさ、小さな別荘だ。そこを俺たちで改装して、珈琲店を始めてみようって思ってるんだ」 「珈琲店……?」 「そ。まあ、豆の仕入れルート探したりさ、本格的なことはまだまだこれからだ。珈琲のことも、店の経営のことも、これからもっともっと勉強しなくちゃな。店のコンセプトも内装も、俺なりにだいたいの案はあるんだけどさ、細かい点はおまえと一緒に考えていきたい」 雅紀の潤んだ瞳がきらきらと輝く。 「前にさ。いつかおまえと、店やりたいなぁって言ってたろ? 思ってたより早かったけどな。動き出すことに決めたんだ」 「……すごい……すごいな。お店、やるんだ。あ……でも……秋音さんは、それでいいって?」

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