39 / 366

硝子のつき2※

雅紀はソファーの端へ、ジリジリと身体を後退させた。桐島は微笑みを顔に貼り付けたまま、ゆっくりとにじり寄ってくる。 ……同じだ……あの時と……これってダメだ……絶対まずいっ…… ソファーのひじ掛けに背中がぶつかる。これ以上はさがれない。 「た……貴弘さん、俺、帰りますっ。話はまた別の……」 勢いをつけて立ち上がった……つもりだった。 が、逆に身体がソファーに沈む。足をとられてバランスを崩したまま、ソファーに押し倒され、上から桐島にのし掛かられていた。起き上がろうともがいても、体重をかけて物凄い力で押さえつけられて、ビクともしない。 「雅紀。どうして逃げるの?」 「……っ」 目の前に桐島の顔が迫る。雅紀は、彼の肩を震える手で掴んで押し戻し、必死に顔を背けた。 何か言いたくても、恐怖に喉が張りついたみたいになって、声が出ない。 「さっきも私を拒絶したよね。いつもみたいに抱きしめようとしたら……」 顔を背けたことで、目の前に差し出された形になった雅紀の耳に、桐島は唇を寄せ囁いた。 雅紀の身体がビクンと跳ねる。首筋に唇が触れ、ねっとりと舌を這わされた。強く吸われてチリっと首に痛みが走る。 「やっ……」 首をかばって身をよじると、桐島の右手が、雅紀の頭をソファーに押し付けるように固定してきて、今度は唇を奪われた。 「んむ……っうぅ」 雅紀はギュっと唇を結んで拒絶する。 「んっう……う~」 いつまでも唇を割らせない強情さに焦れたのか、桐島の膝が、雅紀の足の付け根をグイっと押し潰してきた。 急所に走った痛みにビクリとして、たまらず悲鳴をあげかけた唇を、桐島の舌がすかさず割って進入してくる。奥に逃げ込もうとした舌を、絡め取られて強く吸われ、雅紀の目尻に涙が滲んだ。 「んうぅっ……んぁ……ふ……んっん……」 桐島の左手が、スラックスの上から股間をやわやわと刺激する。さっき痛みに縮こまっていたものは、その刺激に少しずつ反応し始めていた。 ワイシャツの裾をスラックスから引き出した指が、ファスナーをおろし、下着の間から進入して、ゆるやかに立ち上がりかけた雅紀のものを、握りこんでくる。 「んーーっんっんっ」 唇を塞がれたまま、敏感な場所に直接の刺激を受けて、雅紀はびくびく震えながら身をよじった。 もともと刺激に弱い身体は、慣れ親しんで的確に攻めてくる桐島の愛撫に、無反応ではいられなかった。 心では完全に拒絶しているのに、勝手に熱くなっていく自分の身体が悔しくて、雅紀は泣きながら、身をよじり続けた。 はだけたワイシャツ1枚だけの姿でソファーに横たわり、放心している雅紀に、桐島は寄り添い、愛おしげにその滑らかな肌に指を這わせる。 「可愛い抵抗してたわりには、呆気なくイッたね。私がしばらく構ってあげていなかったから、溜まっていたのかな」 桐島の指が、イッた後の柔らかいものを優しく撫で、その下の奥の方を探り始める。雅紀はビクッとして、手を伸ばし桐島の指に自分の指を這わせ 「貴弘さん……そこはまだダメ……朝からシャワー浴びてないし、ちゃんとお湯で解さないと……」 雅紀の気だるげな甘えた声に、桐島は嬉しそうに微笑み、 「ああ。そうだね。君は狭いから、丁寧に解さないと傷つけてしまうな。じゃあ風呂のお湯をためてこようか」 「うん……お願いします……」 桐島が風呂場に消えたのを見届けてから、雅紀はがばっと身を起こし、音を立てないように急いで、散らばっていた服を身につけた。 鞄をひっつかみ、上着をクローゼットから取り出し、靴を履いて、音が響かないようにそーっとドアを開け、外に出る。 追いかけられる恐怖に、足がガクガク笑うのを、必死にこらえ、エレベーターのボタンを押した。 箱があがってくるまでの時間が、気の遠くなるような長さに感じた。 開いたドアから中に滑り込み、閉ボタンを何回も押す。ドアが閉まり、箱が降り始めると、ようやくほっとして、その場に崩れるようにへたり込んだ。  

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!