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第16章 想いのかけら1

さっきアパートを出てきた時には、小降りだった雨が、駅前のコンビニに着く頃には強くなっていた。 ……ちっ。傘持ってくりゃよかった。 煙草とビールとつまみのスナック菓子を買い、雑誌コーナーで立ち読みしながら、暁は外を見て舌打ちした。 コンビニのビニール傘は風が強いとすぐ壊れる。しかもアパートには、出先で降られて仕方なく買ったビニ傘が、既に何本かストックされていた。 ……走って帰るか~?いや、でも結構降ってるしなぁ。 降りやまないかと、立ち読みで少し様子を見たが、弱まるどころか、更に強くなってきた。 諦めて、素直に傘を買い足すと、ちらっとスマホを確認してから、コンビニを出た。 もう午後11時40分。雅紀からの返信はない。 ……考えてみりゃあいつ、住んでる場所も仕事のことも、電話番号すら、教えてくれてなかったんだよな……。 雅紀との繋がりはラインだけ。それが切れれば連絡の取りようがない。 ……俺だけが勝手に盛り上がってただけ……なんかなぁ……。 社交辞令を真に受けて、次の予定なんか聞いてきたのを、雅紀は迷惑に思ったのかもしれない。 一緒に過ごしている間の彼の態度と、別れ際の彼の言葉を思い出すと、そんな風にはどうしても思えないけれど、既読無視の現実だけが、今の暁の判断材料だった。 つらつらとそんな事を考えながら、沈んだ気分でアパートに戻ると、階段の下で佇んでいる人影が見えた。 この雨の中、傘もささずに、じっと上を見上げている。 ……あれ……? 近づいてみて気づいた。 ――雅紀だ。 「おまえ……何やってんだよ……」 暁の声に、人影がびくっと震え、振り向いた。 間違いない。雅紀だ。 暁は慌てて走り寄って 「おまっばかっ。びしょ濡れじゃねーかっ。なんでそんなとこ突っ立ってんだよっ」 持っていた傘を差しかけ、腕を掴もうとすると、雅紀は怯えたように後退り 「ごめ……っごめ……なさ……っ」 そのままよろけるように走り出した。暁は慌てて追いすがって、その腕を掴む。 「なんで逃げんだよっ、待てって」 「ごめんなさ……違う……ごめ……」 「ちょっ落ち着けっ逃げんなって」 腕を振りほどこうともがく雅紀を、強引に引き寄せると、 「な、落ち着けよ。とりあえず中入ろう。な」 明らかに様子のおかしい雅紀に、暁は不安になり、口調をやわらげた。 「おまえずぶ濡れだから。風邪ひいちまうから。とにかく部屋に入ろう?な?」 尚も弱々しく後退ろうとする雅紀を、ぐいっと引き寄せ、優しく抱き締めた。 「っ……」 雅紀の身体から、ガクンと力が抜けた。暁はしゃがみ込みそうになる彼を、慌てて引き上げ、抱えるようにして階段を上がった。 部屋の前まで来ると、雅紀を支えたまま、鍵を開けて、中に連れて入る。 壁のスイッチを押し、その場に蹲りそうな雅紀の身体を、いったん壁に凭れさせて座らせた。暁は急いで風呂場の手前の収納棚から、バスタオルを引っ張り出して戻る。 しゃがみこみ、水を滴らせている彼の頭を、バスタオルで包みこんで、ごしごししてやると、 「な~んでおまえ、せめて屋根のあるとこに、いないかなぁ。部屋の前で待っててくれりゃよかったんだよ」 優しく話しかけながら、顔や身体の水滴を拭う。 「あ~あ、全身グッショグショだな。雅紀、とりあえず服脱げ。服の上から拭いたって意味ねーよ。な?」 「あ…きらさ……ごめ、ごめんなさい……俺……違うから…」 「なんでごめんだよ。俺の方こそ、留守にしてて悪かったな、煙草買いにコンビニ行ってたんだよ」 雅紀は俯いて首を横にふる。 さっき、腕を掴んだ時も抱き締めた時にも、感じたが、こうして明るいところで見ると、余計に分かる。 ……痩せた……よな?いや、つーか、やつれた?こいつ、いくらなんでも、ここまで細くなかっただろ…… 靴を脱がせようとすると、首をふりながら拒絶したが、構わず靴と靴下も脱がせた。服に手をかけ、脱ぐように促すが、雅紀は激しく首を横にふり、ぎゅっと身体を縮こまらせた。 頼りなくなった外見もそうだが、さっきから異常に震えていて、怯え竦み上がるその態度が、ちょっと普通じゃない。 このままじゃ、らちが明かないな。 暁は、怖がらせないように、雅紀の頭を優しく撫でてから、 「んじゃ、このまま風呂場連れてくぞ~。しっかり掴まってろよ~」 わざとおどけた口調で言って、雅紀の身体を抱き上げた。 「あっ…」 急に身体が宙に浮き、雅紀は焦ったような声をあげて、暁にしがみついた。 「ん、いい子。暴れんなよ」 そのまま開けっ放しのドアをくぐって、トイレの仕切りの前を通り過ぎる。 奥の洗い場にいくと、雅紀を、そっとバスタブの壁がわのヘリに座らせた。

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