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想いのかけら2
「ほれ、万歳ってしろよ~」
暁は、雅紀のニットパーカーとその下のTシャツの裾を、まとめて掴んでまくりあげた。
抗いたくても力が入らないのか、雅紀は服に無理やり万歳させられて、そのまますぽっと服を脱がされる。
グラリと前のめりになった身体を支えてから、チノパンの前ボタンを外し、ファスナーをおろした。
「じ、自分で……」
「力入んないんだろ?いいからお兄ちゃんに任せとけって。ほれ、ちょっと頑張って腰あげろよ~」
チノパンのウェスト部分を両手で掴み、自分に凭れさせるようにして腰を浮かせると、一気にずりおろす。もう1度ヘリに座らせて、片足ずつ引き抜いて脱がせると、
「今、お湯溜めるからな」
カランを回して、お湯に手をあてて温度を調整し、バスタブに栓をする。
雅紀は相変わらずガタガタ震えている。さっきからずっと俯いているせいで、顔色は分からないが、この間ここに来た時より、間違いなく痩せている。腕も肩のラインも、ちょっと痛々しいくらいだ。
……たった5日ぐらいでこんなに痩せるって…どういうことだよ?一体何があった?
聞きたいことはいろいろあるが、まずは身体を温めてやる方が先決だろう。話は後だ。
暁は、お湯がふくらはぎあたりまできたのを見て、
「よし、ちょっとまだ浅いけどな、ゆ~っくり下に腰おろしな。支えててやるから」
雅紀の両脇に腕を入れて、抱えるようにしながら、そっとバスタブの底に座らせる。
「ああ、トランクス穿いたままでいいぜ。腰落ちつけてから、脱ぎたきゃ脱げばいいからな」
バスタブに足を伸ばして座ったのを確認して、洗い場に落とした雅紀の服を、丸めて少し絞ってから、
「これ、洗濯機に入れてくるから、そのままじっとしてろよ~」
そう言って、雅紀の濡れた髪をくしゃっとすると、いったん風呂場から出ていった。
……あんだけ急に痩せたんだ。体力、かなり落ちてるよな。ぬるめにしたけど腰湯程度にして、長く浸からせない方がいいかもな。
洗濯機にさっき脱がせた服と靴下を放り込み、ふと思いついて、チノパンだけ引き上げて、ポケットを探ると、財布だけ見つかった。玄関のあたりを見回すと、さっき座り込んだあたりに、雅紀のスマホが落ちていた。
財布とスマホをタオルでくるんで、部屋に入ってテーブルに置き、押し入れから洗いかえ用のバスタオルを引っ張り出す。
風呂場の方からは、お湯を溜めている音だけしか聞こえない。
急に不安になって、バスタオルだけ持って風呂場に戻ると、雅紀はガックリ項垂れていて、お湯は腰の上あたりまできていた。
慌ててカランを止め、雅紀の肩を掴んで、頭をあげさせる。
「おいっ。雅紀っ」
明るい場所で、改めて顔を見てゾッとした。やつれたなんてもんじゃない。ゲッソリとこけた頬。顔色は唇まで真っ白で、まったく生気がない。目ばかりが大きくて、怯えた色を滲ませながら、ぼんやりと暁を見上げている。
あまりの変わりようがショックで、暁の目に涙が滲んだ。
「おま……どうしたんだよ。なんでそんなんなっちまってんだよ…」
腕を伸ばして、雅紀の頭を抱え込む。
「ごめ…なさい…迷惑…かけて…」
「ばーか。謝んなって。迷惑だなんて思ってねーから」
「あい…たか……た…あきらさ…に……顔見る…だけでい…から」
「ん。わかったよ。無理してしゃべんなくていいからな」
抱きしめたまま、震える肩にお湯をすくいかけて、温めてやり、
「風呂出て、部屋行こう。な」
暁は雅紀の身体を優しく抱き起こすと、持ってきたバスタオルですっぽり包んだ。そのままさっきのように抱き抱え、慎重に部屋へ運んでいく。
ソファーの上にバスタオルごと横たわらせると、押し入れから布団を出してきて敷いた。別のタオルを何枚か出してきて、雅紀の髪の毛を優しく拭いて、手や足の水滴も丁寧に拭ってやる。
バスタオルの合わせを開き、ちょっと躊躇してから、
「嫌だろうけど、ちょっと我慢な。トランクス脱がすからな」
暁がトランクスに手をかけると、雅紀はびくっとして嫌がる素振りを見せたが、本当に力が入らないんだろう、抵抗はしなかった。
暁はなるべくそっぽを向きながら、雅紀の下着を脱がせてやると、もう1度タオルで全身を拭ってやった。
ソファーにバスタオルを残して、今度は素裸の雅紀だけ抱き抱えて、そおっと布団の上におろしてやる。
肌掛けをかけてやると、雅紀はほっとしたように息を吐き、ぼんやりと暁を見た。
暁は、まだ湿っている雅紀の髪を、タオルでゆっくり拭きながら、
「少し眠るか?ダルいんたろ?」
「あきら…さ……俺…」
暁は安心させるように、にっこり笑って
「話は後で聞いてやるよ。いいから何も心配しないで少し眠りな。側にいてやるから」
そう言って頭を撫でてやると、雅紀は頷いてぎこちなく微笑み、ゆっくりと目を閉じた。
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