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想いのかけら4
「どうだ?食えそうか?」
「……」
目の前には、スプーン。
……を、雅紀の口の前に、差し出している暁がいて……
「ほら。ふーふーしてやったから、もう熱くないぜ。口開けろよ、はい、あーん」
満面に笑みを浮かべ、ひどく嬉しそうだ。
「………。あの……自分で……」
おずおずと、手を伸ばしてスプーンを受け取ろうとすると、暁はその手をかわして
「だーめだ。まだ力入んないだろ?こぼして火傷したら大変だからな。ほら、口開けろって」
雅紀は諦めて、そろそろと口を開けた。暁は冷ました卵粥を、慎重にスプーンで流しこむと、満足そうな顔をして、
「味どうだ?ちょっと薄すぎたか?」
……。や、味なんて分かんないです。この状況じゃ緊張しちゃって……。
雅紀は、暁に借りたシャツを着て、布団の上に起き上がっていた。丸めた布団が背中に差し込まれ、それを支えに座っている。
そのすぐ右隣に、暁が寄り添って座り、左腕で雅紀の肩を支えていた。
ローテーブルには、暁が作ってくれた卵粥が、湯気をたてていて、スプーンですくった粥を、息を吹きかけて冷ましてくれて。
……近すぎるからっ。ていうより密着してるからっ。
抱かれている肩だけでなく、ぴったりとくっついた右側から、暁の体温が伝わってくる。
「どうした?まだクラクラするか?」
心配そうに顔を覗きこまれて、雅紀は慌てて首を横にふり
「美味しいっ……です……」
「そっか~。んじゃ、もう一口いくぞ~」
嬉々として、再びスプーンでお粥をすくい、ふーふーし始める。
雅紀はテーブルの上のお粥をちらっと見た。大きめのスープカップに、たっぷりのそれを、この調子で一口一口食べさせてもらったら、食べ終わる頃には、のぼせてしまいそうだ。
「あの……暁さん」
「んー?次食べたいか?ちょっと待ってろよ~……ん、よし、もう大丈夫だろ。ほれ、あーん」
雅紀は、じと……っとスプーンと笑顔の暁を見比べてから、諦めてまた口を開いた。
「よし。最初からあんま食べ過ぎると、胃がびっくりしちまうからな。」
そう言って、暁がようやくスプーンを置いたのは、たっぷりのお粥が残り1/3ほどになった頃で。
「お。だいぶ顔色よくなったな。身体あったまっただろ?」
雅紀は、嬉しそうに顔を覗きこまれて、更に頬を紅潮させた。
……あったまったというより、やっぱのぼせてる感じ……。
食欲はまだあまりなかったが、暁の作ってくれた卵粥は美味しかった。薄味だが出汁がしっかり効いていて、人参のすりおろしが入っていて、卵もふわふわ優しくて、こんな状態じゃなければ、お代わりしたいくらいだった。
「ご馳走さまです。美味しかった……。暁さん、ありがとうございます」
「いーや、どういたしまして」
暁は、左腕で雅紀の肩を抱いたまま、右手で頭を優しく撫でた。雅紀がおずおずと赤くなった顔をあげ、暁を見上げると、
「よかったよ……。顔色だけでも戻ってくれて。おまえ真っ白だったからさ、正直怖かった。目、覚まさないんじゃないかって、な」
急にしんみりした口調でそう言うと、雅紀を引き寄せ、柔らかく抱き締めた。
「ごめんなさい……心配させて。迷惑……かけちゃって……」
「そのセリフ、禁止な。言ったろ?迷惑だなんて思ってないって。来てくれて嬉しかったよ。本当だ」
雅紀はコクンと頷いた。
「ところでおまえ、今日、仕事は?」
「……お休み……有休とってます」
「そっか。俺は午後から仕事で出掛けるから、少し横になっとくかな」
雅紀は驚いて、暁を引き剥がし、
「暁さんっ、寝てないの?え、今何時?」
時計を見て更に焦り、
「わっ5時っ。暁さん寝てっ。あっ、俺ここにいたら布団が敷けない…」
わたわたと立ち上がろうとする、雅紀の腕を掴んで、もう1度引き寄せ、
「ばーか。まだムリすんなって。いいよ、おまえ抱き枕にして寝るからさ」
言いながら、雅紀を抱き込み、ごろんと布団に横になる。
「え、ちょっと、え」
焦る雅紀の身体は、暁に完全にホールドされてしまった。
「ね、暁さん、ちょっと……」
「んーおまえもいいから、もう少し眠っとけー」
暁の腕の中で、もぞもぞしているうちに、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
……うそっ。もう寝た?
顔を下から覗き見ると、暁は幸せそうに、既に熟睡しているようで……。
雅紀は動くのをやめた。
……心配して……一晩中寝ないで側にいてくれたんだ……。仕事で疲れてただろうに。
ダメだな……俺、しっかりしなきゃ。こんなに親身になって、世話焼いてくれる暁さんに、これ以上心配も負担も、かけたくない。
ちゃんと食べて寝て。身体も心も、元に戻さなきゃな。
一緒にいて楽しいって、思ってもらえる友達にならないと。
「暁さん……ありがとう……」
「んー」
暁は寝ながら返事をすると、むにゃむにゃ言いながら、雅紀の頭を優しく撫でた。
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