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番外編『愛すべき贈り物』7

里沙は隣に腰をおろして、小さくため息をつき 「さあ?わからないわ。私に聞いたって。またいつもの気まぐれじゃない?」 「気まぐれ、ねえ……。祥悟がああいう顔してる時はさ、要注意だろ。ぜ~ったいに、何か変なこと考えてやがるに決まってるんだ」 「あなたと初めて会った時みたいに?」 里沙の言葉に、暁はうんざりした表情を浮かべて 「……あれは最悪だったな。思い出したら、まーた腹たってきたぜ」 里沙もうんざりした顔で首を竦め 「やめてよね、こんな所でまた蒸し返さないでよ」 「分かってるっつーの。雅紀の前でんな話出来るかよっ」 「そうよね。生々し過ぎるわね」 「俺としちゃあさ、あの危険人物を、出来ればこれ以上、雅紀に近寄らせたくないんだけどなぁ……」 弱りきった顔で肩を落とす暁に、里沙はちょっと複雑そうな笑みを浮かべた。 「順調そうね、雅紀くんと。意外だったわ。あなたがそこまで一途になれる相手が見つかるなんて」 暁はちらっと里沙を見て、照れたように髪をかきあげて 「まあな。俺も正直、自分で自分にびっくりだぜ。なんつーかさ。俺の世界が一変しちまったんだよ。あいつに逢ってからな。もちろん、最初はわけわかんなかったぜ。なんだこれ、恋する乙女かよっな~んて、自分に突っ込み入れてたもんなぁ」 里沙はカウンターに頬杖をついて、暁の顔をまじまじと見つめた。 人は変われば変わるものだ、と本当に思う。目の前で恋人のことを幸せそうに語る暁に、もう以前の荒んだ印象はまったくない。 「ね。記憶、戻ったの?」 何を思い出していたのか、1人でにやけていた暁が、里沙の質問にはたっと我に返った。 「……」 珍しく言葉を詰まらせている暁に、今度は里沙が首を傾げた。 「え、なに?私、何か変なこと言った?」 「や、いやっ。そっか、そうだよな。俺まだおまえに、何にも話してなかったんだよな」 「ふふ。あなたが何も話してくれないのは、今に始まったことじゃないけどね」 「んー……まあな。話さないっつーより話せなかったんだよ。前にちらっと言ったろ。昔の記憶、吹っ飛んじまってて、頭ん中空っぽだってさ」 頼んでいた飲み物が出来上がって、番号で呼ばれた。暁はスツールから降りると 「続きは、後でゆっくり話す。あ。今日この後、何か予定あんのか?」 「ううん。私は何にも。祥悟は夜、打ち合わせが入ってるみたいだけど」 暁は飲み物を乗せたトレーを持つと 「んじゃ、一緒に飯でも食いながら話そうぜ」 そう言ってテラス席に向かって歩き出した。 「いいの?雅紀くんとデートだったんでしょ?お邪魔じゃない?」 「心配要らねえよ。あいつとは毎日一緒だかんな。っつーか、あいつのいないとこでおまえと会うより、目の前で話した方がいいんだよ」 「そっか……。そうよね。じゃ、お言葉に甘えて、ご一緒させてもらうわ」

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