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番外編『愛すべき贈り物』8

テラス席に戻ると、相変わらず祥悟は雅紀にベッタリと引っ付いて、楽しそうにお喋りしていた。 と言っても、祥悟が一方的に話して、雅紀は何故か赤い顔して、こくこく頷いているだけだったが。 「こーら。離れろよ、祥。雅紀は俺んだっての」 トレーをテーブルの上に置くと、暁は椅子を引っ張ってきて、祥悟と雅紀の間に割り込んだ。 「うわ。何そのお邪魔虫発言。ちょっと。俺いま雅紀と楽しくお話してたんですけど?」 暁は、抗議する祥悟を無視して、雅紀にぴったりくっつくと、肩を抱き寄せ頭をわしわし撫でて 「ごめんな~雅紀。寂しかったろ」 雅紀は顔を真っ赤にして 「やっ、暁さんっ。人前で何してんですかっ」 文句を言いながらもがく雅紀を、更にがっちり抱き締めた。 3人でこの後、食事に行くと告げると、祥悟は自分も一緒に行きたいとしばらくごねていた。マネージャーに連絡して予定を変更しようとする祥悟に、珍しく里沙が厳しい表情で 「今日の打ち合わせはドタキャンはダメよ。分かってるでしょ?祥」 祥悟はむくれた顔をしていたが、やがて大きなため息をついて 「分かってる。あーあ。仕方ないな~お仕事お仕事。あ、でもね、次の機会作ってよ、今週中に。土日以外なら夜は空いてるから」 祥悟に盛大にごねられて、結局3日後の仕事あがりに落ち合って、食事に行く約束をさせられた。 「そう……。じゃあ、あなたの本当の名前は、暁じゃなくて秋音、なのね」 「そ。桐島秋音な。ま、実際は母親の方の姓名乗ってたから、都倉秋音だ」 もじ丸の奥の離れの座敷で、おばさんの料理を食べながら、暁は里沙にこれまでの経緯を順を追って話した。長い長い話の間中、里沙は時折驚いたり気遣わしげな表情を浮かべて、静かに相槌を打っていた。 里沙をもじ丸に連れてきたのは初めてじゃない。2~3年前までは結構頻繁に会っていたから、よくここで落ち合って食事をした。里沙は俺が連れてくる女の中では、一番おじさんとおばさんに気に入られていたから、店に入るとしばらくは、おばさんと楽しそうに話をしていた。 俺としては、昔の女を連れて雅紀と一緒に来ていることに、気まずさがあったが、雅紀は全然気にする様子もなく、むしろ里沙とは打ち解けた雰囲気で、車の中でも意外に会話が弾んでいた。 ……そう。意外だったんだ。普段あれだけ人見知りの雅紀が、里沙にこんなに懐くなんて。まるで昔からの友人のように、すっかり気持ちを許して寛いでいるように見える。里沙は俺より2歳上だが、モデルをやっていただけあって、実年齢より若く見える。雅紀より5歳近く年上のはずだが、並んでいても美男美女の似合いのカップルだ。 ……っつーかさ。むしろ俺よりお似合いだったりして……。 里沙に話しかけられて、ちょっと赤くなりながら、でも楽しそうに答える雅紀の表情が、やたらと可愛くて眩しく見える。 ……や。雅紀は根っからのゲイだろ。女には興味ない……はずだよな?

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