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番外編『愛すべき贈り物』9

「大変だったのね。いろいろと」 「んー……まあな。でも犯人も捕まったし俺の記憶も戻ったし、今は平和だぜ。雅紀ともこの通り、ラブラブだしな。な~雅紀」 暁がそう言いながら、隣の雅紀に擦り寄ると、雅紀は眉を顰めながら、身体を引いた。 「おいこら。なんで逃げるんだよ」 「や、だって……人前です」 「いいんだよ。里沙は俺たちの関係知ってるんだからさ」 更に寄ってくる暁を、雅紀は赤い顔で押しとどめて 「ダメ。里沙さんに失礼ですー」 「は?なんで里沙に失礼になるんだよ」 雅紀はそれには答えず、首を横に振って怖い顔をした。2人のやり取りに、里沙は苦笑して 「でも、良かったわね。辛い時期に、雅紀くんが側にいてくれて。ずいぶん救われたんじゃない?」 「ん。そうなんだよ。こいつのお陰で、俺はず~っと前向きでいられたんだ。まあ俺にとってこいつは、天使みたいな存在ってやつだよなぁ」 デレっとした顔でのろける暁に、雅紀は顔を真っ赤にして 「やっ。んもぉ~暁さんのばかっ。酔ってるでしょ。里沙さんの前で何言っちゃってるんですかっ」 また凝りもせず懐いてくる暁の頭を、ばしばしばしと叩いた。 「いてぇっつの。何だよ~。何照れてんだよ」 抱きつこうとする暁に、雅紀は堪らずその手をぱしぱし叩きながら立ち上がると、里沙の座っている側に逃げた。里沙はくすくす笑いながら 「暁。いい加減にしないと、大事な天使に逃げられるわよ」 「ちぇっ。冷てえやつっ」 雅紀は里沙の隣に腰をおろすと、ぼやく暁を睨みつけてぷいっとそっぽを向いた。 「でもね。いいこ見つけたんだなって、思ったのよ、あの時」 「んー?」 「カフェで会ったでしょ?あの時。あなたの雰囲気がね、前と変わってた。すごく優しい穏やかな目をしてて、私、なんだかほっとしたのよ」 「里沙」 「表面上は穏やかなフリしてても、あなたいっつも苛立ってたし焦ってた。周りに見えない壁張り巡らせて、ずっとピリピリしてたでしょ」 「あー……まあな」 暁はちょっと苦笑いしながら、グラスを掴んで煽った。 「私はね、暁。一番辛くてどうしようもない時期に、あなたの存在に救われてた。だから、私もあなたの助けになりたいって思ってたわ」 柔らかい笑みを浮かべながら、しみじみとそう言う里沙に、暁は少し遠い目になって、自分の過去に思いを馳せた。

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