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第17章 想い想われふりまわされて1

なかなかトイレから出て来ない雅紀に、心配になってきて、風呂場のドアを開けて覗いたら 「入っちゃダメですっ」 っと、貸したシャツが飛んできた。 夕べの弱々しさを考えたら、だいぶ元気になったらしい。なによりだ。 ……で?服脱いで、シャワー浴びんのか?大丈夫か?1人で。 っつーか、これ、どうすっかな… 暁はまだ元気一杯の愚息を見下ろし、ため息をつく。 ……あいつも勃っちまってんなら、一緒に浴びながら抜いちまうって手もあるんだけどなぁ。 いや。ダメか。あいつ、変に生真面目だし、恥ずかしがりだし。んなこと冗談でも言ったら、怒って帰っちまうかもな。 ……仕方ない。部屋で抜くか。 暁は、すごすごと部屋に引き返し、布団に腰をおろして、BOXティシュを引き寄せた。 「暁さん……バスタオル……貸してください」 風呂場のドアが少し開き、おずおずした声とともに、手がにゅっと出た。 「ん。ちょい待てよ~」 暁は、鍋の火を止めて、昨日使って干しておいたバスタオルを、部屋から取って戻ってくる。 そのまま、手には渡さず、ドアを全開にして、びっくりして、逃げ込もうとする雅紀の腕をすかさず掴み 「ちゃんと洗えたか?ふらふらしないか?ほら、逃げんなって」 言いながら、バスタオルで、まずは雅紀の頭をごしごししてやり 「そこ狭いから、こっち出てこいよ。マット敷いてるから大丈夫。ほら恥ずかしがんなって。男同士だろー」 何かもごもご言ってるのを無視して、ドアの外に引っ張り出すと、頭の次は身体をざっと拭いて、バスタオルを腰まわりに巻いてやる。 「タオル干してあるから、頭ちゃんと拭けよ。あと、別のシャツ、ソファーに置いたから、それ着とけな」 そう言って、肩を軽く押して促すと、雅紀は赤い顔で俯いたまま、無言でコクコク頷いて、逃げるように部屋に入って行った。 ……あいつ、1人っ子かな?なんつーか、こういうの耐性ないよな。学生の頃、修学旅行とか、風呂どうしてたんだ?……や、俺もそれ言えねーけどさ。それにしたって恥ずかしがり過ぎだろ。 首をひねりながら、お玉で鍋の中身を器に取り分ける。 「よし、出来た。昼飯にすっか」 テキパキと布団をあげ、ローテーブルを真ん中に引き出す。何か手伝おうとうろうろしている雅紀に、いいからここに座ってろと手で示して、キッチンに戻り、準備した昼食をトレーで運んでくる。 「おまえは、もうちょっと体力戻るまで、お手伝い禁止な」 尚も手伝おうと腰を浮かす雅紀に、にかっと笑ってそう言うと、テーブルに器を並べ始めた。 雅紀の前には、卵粥。 豆腐とワカメの味噌汁。真ん中にだし巻き卵。胡瓜とワカメの酢の物。かじきの粕漬け。 自分の方には、白いご飯と味噌汁と納豆。 雅紀は、ぽやんとした顔で、次々と並んでいく料理を見つめている。 「おまえ、我慢してもう1回お粥な。卵焼きと酢の物と魚は、食えそうなら食っていいけど、無理はすんなよ。胃が辛そうなら、お粥だけにしとけな」 雅紀は慌てて、頭をふるふるして、 「我慢だなんてっ。俺、このお粥、もっと食べたかったし。でも、他のも全部、めちゃめちゃ美味しそう……。これ今、暁さんが全部作ったんだ。すげぇ…」 雅紀の素直過ぎる賛辞に、暁は苦笑して 「おまえな、よーく見てみろ。結構、手抜き満載のメニューだから。卵焼いて、魚焼いただけだぞ~。味噌汁の具も切って入れただけ」 「やっ、でもっ」 「美味そうに見えたってことは、食欲出てきたんだな?」 「えっ……あ……」 雅紀は、自分のお腹に手をあてた。言われてみて、気づいた。まったく食欲が消え失せていたのに、確かに今、お腹が空いたと感じている。 暁はにっこり微笑むと、 「前に言ったろ?ちゃんと食べないと、人間ロクなこと考えないんだよ。まずは腹満たしてやって、それから、ゆっくりいろいろ考えような」 暁の言葉が、じわじわと心に沁みてくる。 本当にその通りだ。 雅紀は目に涙を滲ませて、暁の焼いた、だし巻き卵を見つめた。 「おーし。食うか。今日、仕事終わったら即行で帰ってくるからさ。おまえの話、ちゃんと聞いてやるよ。で、ゆっくり一緒に考えてやる。だからもう、何も心配すんな。な?」 雅紀の目から、涙がぽろぽろ零れ落ちる。 「ありがとう…暁さん」 「ん。だからそんな顔して泣くな~っての。ほら、冷めるから食うぞ」 雅紀は涙をぬぐい、暁に精一杯微笑んで、きちんと手を合わせ、いただきますしてから、スプーンを取った。

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