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想い想われふりまわされて2
食器を片付け、部屋に戻ってきた暁が、指先をくいくいっとする。
「ちょっとさ。ソファー座ってみ」
雅紀は何事かと首を傾げ、素直に立ち上がった。
「お。ちょい待て。そこでくるっと、こっち向いて」
雅紀は慌ててクルリと振り返る。ニヤニヤしながら何か企み顔の暁と目が合って、嫌な予感に眉をしかめた。
「やっぱいいよな~。彼シャツ。そのダボダボな感じがさ、男のロマンだよなぁ」
………。やっぱりか。
「な、そのままソファーに座ってみ。こう膝揃えてさ、ちょこんって感じで…」
はしゃぐ暁に、雅紀はますます眉をしかめ、ため息をついた。
「……暁さん、それ、ものすごーく、変態おやじくさいから」
暁が昼過ぎに、慌ただしくアパートを出て行った後、雅紀はソファーに座って、暁が出してくれた、アルバムを見ていた。
1枚1枚ゆっくりと写真を見ながら、出がけの暁との会話を思い出す。
「雅紀。どんな事情かは分からないけどな。もう1人でどうにかしようと思うなよ。
今日はとにかく、余計なこと考えずに、ここでゆっくり体力回復な。こないだのおまえが撮った写真、パソコンにおとしてあるから、好きに見ていいし。良さげなのは、プリントして、こっちのアルバムに入れてあるから。
帰りは何時になるか、まだ分かんねえからさ。見通しついたら連絡する。あ、おまえが嫌じゃなきゃ電話番号教えて。俺のも教えるからさ」
「うん、わかった。……ありがとう……暁さん。迷惑かけて…」
「それは禁句。気になることあったら、1人で悩まないで、ラインか電話しろよ。あとこれ、部屋の合鍵、渡しとく。コンビニとか行きたかったら、それ使えよ。んじゃ、行ってくるな」
「はい。行ってらっしゃい。気をつけて」
「おっ。それいいなぁ。なんかさ、新婚さんっぽくねーか?ついでにさ、チューとか…」
「しないから。電車遅れるよ、暁さん」
「ちぇっ。ケチ。んじゃな」
……新婚さん……か。
思い出して、つい頬がゆるむ。
……暁さん。すごーく格好良くて大人なこと言うくせに、その後いっつも台無しなんだよなぁ。彼シャツとか、はいあーんとか。
それに……スキンシップ過剰だし。
雅紀は、起きがけの濃厚過ぎる行為を思い出して、独り顔を赤くした。
ほとんど裸同然の状態で、後ろから抱きしめられて、彼の熱い指が、肌の上を滑り這い回った。むき出しの腰の下あたりに、彼の大きくて硬いものの感触を、何度も感じた。あのままもし、彼の指が自分のものに触れてしまっていたら…
「んもお~何考えてんだよっ。ダメだってば」
想像しただけで、下半身がズクンと疼いた。
あの後、風呂場に逃げ込んで、暁の指の感触を思い出しながら、自分でしたのに……。
雅紀は熱い吐息を、ため息とともにこぼしてから、頭をぶんぶんふって、自分の不埒な妄想を追い出した。
不思議だな……。
あんなにパニクって、
1人でどんどんおかしくなって、
もうどうでもいいやって、最後は投げ遣りになって、暗い闇に堕ちていったのに、
暁はいとも簡単に、
自分を引き上げてくれた。
あの人の隣で、ずっと笑っていられたらいいのに。
暁さんが帰ってきたら、何をどんな風に話そう。
自分の、過去のこと?
自分の、性癖のこと?
そして、桐島のこと?
……ダメだ。何も話せない。
桐島とのことを話さないと、今、自分が陥っている状況は説明できない。
でも、桐島とのことを話すには、自分の性癖や過去の話も、避けては通れない。
……俺がゲイだって知っても、暁さん……変わらないでいてくれるのかな。
気持ち悪いって……思わないかな。
暁さんなら、な~んだそんなことかって、言ってくれそうな気がする。
あの笑顔で、優しく受け止めてくれそうな気が……。
……いや。無理だよな。いくら暁さんが優しくったって……
マイノリティの切なさは、ゲイだと自覚してから、散々思い知らされている。
嫌悪や蔑みまでいかなくても、奇異の目で見られたり、面白がられたり、避けられたり、気持ち悪がられたり。
実の親だって理解してくれないのだ。ましてや他人が分かってくれるはずがない。
……嫌がられて、もう側にいられなくなるくらいなら、やっぱり黙っていた方がいい。暁さんには話せない。知られたくない。
―好きだからこそ、暁さんにだけは、
絶対知られたくない―
雅紀は、はぁ~っと深くため息をつくと、膝の上のアルバムを抱きしめた。
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