463 / 605
番外編『愛すべき贈り物』12
暁がだし巻き卵をつつきながら呟くと、雅紀はちょっと驚いた顔で暁を見た。
「ん? なんで、んな不思議顔だよ。初めて会った夜に、俺の方からキスしたじゃん」
「あっ。暁さんっっ」
「忘れたとは言わせねえぞ。俺はおまえにひとめ惚れだったの。あれはさ、はずみとか事故じゃねえよ。あん時から、俺の心はず~っとおまえ一筋なんだっての」
「もうっ。また余計なこと言ってるしっ」
雅紀は耳まで真っ赤になって、焦りまくっている。里沙はふふっと笑って、暁のつついているだし巻き卵に箸を伸ばし
「何となくそうかな~って思ってたわ。暁は誰にでも優しいけど、情に絆されて相手を本気で好きになったりはしないでしょ。それじゃあ、雅紀くんとは、会った瞬間に恋に落ちたのね」
「ん~。だな。まあ、最初はさ、俺、自分の気持ちに気づいてなくて、めちゃくちゃ悩んでたけどな。ストレートだって思ってたしな」
「そうよね。あの頃遊んでた相手はみんな女の子だったし。そういえば、祥があなたに迫った時も、俺はそっちの趣味はねえぞって、焦ってたんだものね」
思い出し笑いしながら里沙がそう言うと、暁と里沙の顔をきょときょとと見比べていた雅紀が、目を丸くした。
「えっっ。祥悟さん、暁さんに迫ったことあったんですか?!」
暁は渋い顔でだし巻き卵を口に入れ
「あんのやろ。人おちょくって遊びやがって……。うわ。思い出したら、ま~た腹たってきたぜ」
「祥悟さんが……暁さんに……」
雅紀は何故かかなりショックを受けた様子で、ぶつぶつと呟いている。
「あれは、祥が勘違いしただけよ。あの子、思い込み激しいから」
「いーや。あいつのは単なる思い込みだけじゃねえな。完全にシスコンだろ」
暁が苦い顔をすると、里沙もため息をついて
「……そうね。困ったもんだわ。祥にも誰か大切な人が出来て、少し落ち着いてくれるといいんだけど……」
「ま、あの調子じゃ当分無理だろ。それより里沙。おまえの方こそ、どうなんだよ?まだ……ずっとか?」
里沙は目を伏せて首を竦め
「私は大丈夫よ。もう随分前に吹っ切れてる。っていうより、最初から始まってもいない恋だもの。何も変わらないわ」
「おまえの気持ち、相変わらず全然気づいてねえのかよ」
「そ。鈍感だから。優しいけど、残酷な人なの」
「もういい加減、告っちまえばいいだろ。おまえみたいないい女に、そんだけ惚れられてんのにさ。気づかないとか、どんだけ鈍いんだよ」
里沙は顔をあげて、謎めいた笑顔を浮かべると
「今更、告白なんか、しないわ。好きだから。彼の幸せ、壊したくないの」
「そっか……」
このやり取りは、以前頻繁に会っていた頃から、もう何度か繰り返している。お互い、相手のことに干渉しないのが暗黙のルールだったが、時折見せる、里沙の投げやりな言動が気になった。里沙は相手のことについては、頑固に口を閉ざし、絶対に言おうとはしなかったが。
暁がため息をついて、ふと雅紀の方を見ると、雅紀は何だか悲壮な顔をして、里沙を心配そうに見つめている。
……なんでおまえが泣きそうだよ?……ったく。感受性強すぎだっての
俺はこの時、勘違いしていたんだ。
いや。勘違いしてたのは、俺だけじゃなかったんだが……。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




