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番外編『愛すべき贈り物』13

里沙と飲んだ3日後、祥悟との約束通り、暁と雅紀はそれぞれ、仕事あがりに指定された店に向かう予定でいた。だが、暁の方に顧客からの急な呼び出しが入って、雅紀だけが先に店に向かうことになった。 「ここ、ここ」 恐る恐る店の扉を開けて、雅紀が中を覗き込むと、カウンターに座っていた祥悟が立ち上がって手を振っていた。 「こんばんは。遅くなっちゃって、ごめんなさいっ」 雅紀が急いで歩み寄ると、祥悟はにこにこ笑って 「暁くんから連絡もらったよ。急な仕事でまだ来られないんだって?」 「はい。お客さんから呼び出しがあって。多分、1時間ぐらい、遅れるかもって」 祥悟はふふふっと御機嫌な顔で 「ふーん。それは好都合」 「え?」 「ううん。何でもない」 雅紀は首を傾げ、きょろきょろと周りを見回した。 「あの。里沙さんは……まだですか?」 祥悟は雅紀を手招きして、店の奥のテーブルに向かいながら 「あ。言ってなかったっけ?里沙、今日は来ないよ」 「え……」 びっくりして立ち止まった雅紀に、祥悟は意味深な笑みを浮かべながら 「暁くんが来るまで、君を独り占め出来るね。2人っきりで、ゆっくり話したいって思ってたんだ」 雅紀は戸惑った顔で、瞳を揺らした。 ……どうしよう。祥悟さんと2人きりなんて……。暁さん来るまで、俺、間がもてるかな。 雅紀の困惑をよそに、祥悟は楽しげに雅紀を手招きしている。雅紀はドギマギしながら、祥悟の隣に腰を降ろした。 「ここね、結構料理が美味しいんだよ。雅紀、お腹空いてるよね?先に何か頼もうか」 「あ、はい……」 早速メニューを広げる祥悟に、雅紀は素直に頷いた。祥悟は雅紀にぴたっと寄り添って 「俺のお勧めは、これとこれ。あ、そうだ。先に飲み物頼もうよ。雅紀は何飲む?ビール?ワイン?それとも日本酒?」 「あー……えと」 ……どうしよ……。こういう所に来て、お酒頼まないって顰蹙なのかな……。俺、弱いし、出来ればアルコールは避けたいんだけど……。 アルコールメニューの上で、うろうろと視線をさまよわせていると、 「ふふ。特にこだわりないなら、俺のお勧めはワインかな。これ、東北の知る人ぞ知る酒造会社の、日本製のワイン。すっごく飲みやすくて美味しいから、これにしようか」 祥悟はそう言って、雅紀の返事を待たずに、店員に合図すると、ワインとツマミ用の前菜盛り合わせを、さっさと注文してしまった。 普段、暁と一緒にいても、自分がかなりスローペースだな~と感じることは多いが、祥悟のは超ハイペースすぎて、まったくついていけない。 というか、祥悟のは超マイペースで、こちらの意見など通る気がしないんだけど……。

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