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番外編『愛すべき贈り物』14

ワインがグラスに注がれると、祥悟はグラスを持ち上げて 「素敵な夜に、乾杯だね」 無理やり持たされたグラスに、祥悟は微笑みながら、自分のグラスをチンっと合わせた。 里沙によく似た祥悟は、よく見るとやっぱり男の人の顔つきだが、口の端をきゅっとあげて微笑むと、なんだか妖艶な色気がある。 じっと見つめられて、雅紀はドキっとして、頬を赤らめた。 「ねえ、雅紀。君って根っからのゲイなの?女は全然ダメな人?」 下からすくい上げるように顔を覗き込まれて、雅紀は目を泳がせながら 「あ。えと……はい、あの、そうです」 「ふうん。でも暁くんは違うよね。彼のお相手は女だけだった。その彼が、どうして君と付き合うことになったのかな」 「……あの……」 子どものような好奇心いっぱいの真っ直ぐな目。心の奥まで覗かれているみたいで、目を逸らしたいのに逸らせない。 「俺ね、いっとき暁くんのことが好きになって、彼に迫ったことがあったんだよね。そっちの趣味はねえよって、はねつけられたけど」 祥悟はあっけらかんとした顔でそう言うと、楽しそうに微笑んだ。 ……そのことは、里沙さんと暁さんが話してた。やっぱり祥悟さんは、暁さんのことが好きだったんだ……。 「君の方から誘ったの?暁くんのこと。もちろん君たち、プラトニックな関係じゃないよね?」 祥悟の表情や喋り方には、不思議と敵意みたいなものは感じない。昔からよく他人に向けられた、マイノリティーに対する残酷な好奇心……という感じでもない。邪気も悪意もまったく感じないのが、ちょっと不思議だったけど、あまりにも率直に切り込んでこられて、何て答えたらいいのか、言葉が見つからない。 「あの…俺が誘ったとか、そういうんじゃないかな……って」 確かに、自分から暁を誘惑したりしたつもりはない。でも、ノンケだった暁が自分のことを好きになってくれた。プラトニックじゃなくて、ちゃんと身体の関係もある。以前、仙台で秋音の親友だった坂本にも同じように言われたけど、やっぱりゲイの自分が、暁を誘惑したってことになっちゃうのかな……。 雅紀が言葉を詰まらせて、落ち込んだように俯くと、祥悟は不思議そうに首を傾げて 「なんか……調子狂うなぁ。雅紀、君ってさ、自分に自信ないの?それだけ美人で、暁くんにベタ惚れされてるのに」 「や。俺、美人じゃないしっ」 ぱっと顔を赤くして、ぶんぶんと焦ったように首を振る雅紀を、祥悟は呆れたように見つめた。

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