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番外編『愛すべき贈り物』15

里沙や自分を袖にして、女好きの暁がのめり込んでいる青年。会ってみたら確かにかなりの美人だった。顔やスタイルだけじゃなく、きっとタラシのテクもすごい子なんだと思ってたのに、話してみればウブで素直で、はっきり言って、男をたらし込むような色気も感じない。どうしてあの暁がそこまで惚れ込んでいるのか、よく分からない。 ……普段は大人しい仔猫ちゃんだけど、ベッドに入ったらすごい、とか? 祥悟が所属している世界でも、結構いるのだ。女でも男でも、ウブそうな顔をした異常な床上手が。 祥悟自身はノンケだが、業界関係にはそっち系の男は多い。だからたまに営業も兼ねてそういう連中と戯れ程度に絡むこともある。暁に惚れて迫ったことがあると言ったのは、半分本当で半分嘘だ。暁のことはちょっとほだされそうにはなったけど、自分じゃなくて出来れば……。 「ねえ、雅紀。里沙に会ってみて、どう思った?」 「え……どう……って……」 「里沙。全然平気なフリしてるけど、暁くんのこと、好きだよね?」 困惑気味だった雅紀の目が、一瞬大きく見開かれ、その後不安気に揺れた。祥悟は頷いて 「やっぱり君も、そう思ったんだ? そう。里沙はね、暁くんが遊びだ遊びだって言い張るから、ほんとの気持ちを言えないだけ。ずっと暁くんのこと、好きなんだよね」 祥悟の言葉に、雅紀はちょっと泣きそうな目をした。 思い当たる節はあるのだ。里沙がとても辛い恋をしてるらしいこと。そして、暁のことを深く愛していること。先日一緒に飲んだ時に、2人のやり取りを見ていてそう感じた。 もし、自分が現れなければ。 暁は里沙とは一番よく会ってたセフレだと言っていたし、2人で話している様子もすごく自然で、馴染んでみえた。そもそも暁は、ゲイではないから、自分とこんな関係にならなければ、そのまま里沙と関係を続けていけたわけで。 雅紀はそこまで考えて、ぶんぶんと首を横に振った。ダメだ。これは俺の悪い癖。暁の大切な気持ちを、疑うつもりなんかない。そう言いながら、やっぱり自分にどうしても自信が持てなくて、すぐ悲観的になってしまう。 観覧車で、秋音より暁がいいと言ってしまった時の、暁の思いがけない反応。あれが、自分で思っている以上に堪えているのかもしれない。 新しいアパートに引っ越して、毎日が穏やかで幸せで満たされている。もし暁が、自分と同じような意味で自分を愛してくれていなかったとしても、彼が与えてくれる深い愛情に包まれて、自分は充分過ぎるほどに幸せなのだ。 ただ……。 もし暁が、やっぱり俺はゲイじゃないから、これ以上は続けていけない、そう言う日が来たとしても、自分は笑ってそれを受け入れるつもりだ。その覚悟は出来ている。 暁が誰か他の……女性に恋をして、自分から離れていく日が来ても、恨んだり泣いたり縋ったりはしない。 自分の命よりも愛しい大切な人だからこそ、何よりもまず、暁と秋音の本当の幸せを優先させたい。

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