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番外編『愛すべき贈り物』17
雅紀は震える手で、グラスをぎゅうっと握った。暁に穏やかに愛されて、少しずつ薄れていた過去のトラウマが、またよみがえってくる。
心臓がドキドキする。どうしよう。息が苦しい。
またパニックを起こしたら、何も知らない祥悟にまで、迷惑をかけてしまう。
……落ち着いて。ダメだ。深呼吸。ゆっくり息を吸って……吐いて。大丈夫。思い出すな。あれは全部過去のことで、もう俺は大丈夫なんだから。
祥悟はワインを1口飲んで、前菜をつまむと、
「暁くんに、冷静になって考える時間、あげてもいいよね。だってノンケの彼には、女性と家庭を持って、自分の子どもを育てるって選択肢もあるんだよ。一時の感情で、これから先の長い人生を決めてしまうのは、まだ早いと思うんだよね」
祥悟の声が、遠くなったり近くなったりする。
雅紀はグラスを持ち上げて、ワインを1口飲んだ。
「……俺も、それ、気になってました。ってか、ずっと、気になってますよ。暁さん、優しいから。でも……」
雅紀はいったん口を閉じ、深呼吸してから顔をあげた。祥悟は雅紀の顔を見て、ちょっと驚いたような顔をした。
「でも俺、暁さんの気持ちだけは、疑いたく、ない。それ、やっちゃダメだって、思ってるから。それはあの人に対する、最悪の裏切りだって……思って……」
雅紀の顔色は真っ青だった。苦しそうに息をしながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「雅紀…?それ……過呼吸?」
祥悟ははっとしたように呟いて、雅紀の腕を掴んで立ち上がった。
「ちょっと洗面所、借りる」
店員に断って、雅紀を引っ張るようにして、店の奥の洗面所に連れて行く。
ドアを開け、雅紀を壁にもたれさせると、顔を覗き込んだ。苦しそうにハクハクしてる雅紀に顔を近づけ
「ゆっくり、息、吐いて。全部吐ききるんだ」
祥悟に言われるまま、雅紀はふううっと息を吐き出そうとするが、上手くいかない。苦しさに顔を歪め、涙をぽろぽろ零す雅紀の様子に、祥悟はちっと舌打ちすると、ぐいっと雅紀の顔を両手で掴んで、いきなり唇を奪った。
雅紀は息を飲み、びくっと震えた。祥悟は構わず雅紀の口をがっちりと塞ぐと、弱々しくもがくのを壁に押さえつけて、思いっきり息を吸った。
雅紀は両手で祥悟の身体を押し戻し、身を捩って顔を背けようとするが、祥悟はそれを許さず、更に渾身の力で雅紀を壁に縫い付けた。
「……っふぅ……っんっ……っく」
無理矢理、唇を奪われたショックで、雅紀の頭の中は真っ白になった。
……なに、これ、やだ、やめっ
パニックになりかけていた頭が、冷水を浴びせられたように一気に冷えた。
暁さんじゃない、他の男の唇。
やだ。こんなの絶対に嫌だ!
祥悟の舌が侵入してきて、もがく雅紀の舌を絡めとる。雅紀は夢中で祥悟の髪を掴んで引っ張った。祥悟はうるさげに頭を振り、雅紀の手首を掴んで壁に押さえつける。
やだやだやだやだっっっ
ードカっ
思いっきり蹴り上げた膝が、祥悟の股間を直撃した。
「っっっっ~~~!」
祥悟は声にならない悲鳴をあげて、雅紀から離れ、股間を押さえて蹲った。
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