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番外編『愛すべき贈り物』20

さっきトイレで、祥悟に無理矢理キスされて、雅紀は無我夢中で抵抗の末、祥悟の股間を思いっきり膝で蹴り上げた。 祥悟は悶絶して、蹲ったまま動かなくなり、雅紀は過呼吸もパニックも一気に吹き飛んで、祥悟の側でしばらくおろおろしていた。 「……ぁの、祥悟さん、大丈夫……ですか?俺、救急車……」 雅紀が声をかけると、祥悟は涙目で顔をあげて 「やめてよ~。男の子にキス迫ったあげく、股間蹴られて救急車とか、恥ずかしくて仕事出来なくなっちゃうでしょ」 「……でも……痛い……ですよね?」 「ん、痛いね~。俺、こんな目にあったの初めてかも。雅紀って案外、凶暴だよね」 「ごっごめん……なさい……」 祥悟ははぁぁっとため息をついて、壁に寄り掛かりながらよろっと立ちあげると 「危うく使い物にならなくなっちゃうとこだった。でも雅紀、過呼吸、治ったでしょ?」 雅紀は眉をさげた情けない顔で、祥悟を見つめて頷き 「うん……びっくりして……吹き飛んじゃったみたいです」 「ふふ。ショック療法だよ。それにしても、君の唇って柔らかいね。ちょっと癖になりそうだな」 楽しそうに微笑んで顔を覗き込まれ、雅紀は自分の口を手で押さえて後ずさった。 「雅紀。俺とキスしちゃったって、暁くん知ったら……きっと怒るよねぇ」 両手で口を押さえて、真っ赤になっている雅紀の目が、大きく見開かれた。 「これって浮気になっちゃうのかなぁ?」 「やっ。ならないっです。だって祥悟さん、今、ショック療法だって……」 ふるふる首を振りながら、更に後ずさる雅紀に、祥悟は笑いながら迫っていって 「ふうん、そう?でもキスはキスだよね。暁くんに知られたら、おしおきされちゃうかもね」 「……っ。おしおきって……」 雅紀は暁の顔を思い浮かべ、微妙な顔つきになった。 祥悟に無理矢理されたんだって言えば、きっと暁は怒ったりしない。でも暁のことだ。祥悟の言う通り「隙見せた罰におしおきな」なんて言いながら、じわじわといじめられそうかも。 泣きそうな顔で赤くなる雅紀に、祥悟はいたずらっぽく笑って 「んー。何想像してるのかな。雅紀、顔真っ赤だけど?……エロいこと考えてるでしょ?」 「っかっ……考えてないっ」 「ねえ、雅紀。俺がさっき言ったこと、覚えてる?」 「……え……」 「暁くんのこと。君、彼が大好きだよね?幸せになって欲しいよね」 祥悟の綺麗な顔がドアップで迫ってくる。雅紀はこくこく頷いて、もっと後ずさろうとして……壁に背中がぶつかった。 「俺は里沙がせめて、暁くんにちゃんと告ってから、振られるんだったら振られて欲しいんだ。じゃないといつまでもずっと気持ち、引き摺るでしょ」 「祥悟さん、でも俺っ」 「俺ね、里沙には幸せになって欲しい。俺たち双子だけど、生まれてすぐに両親が事故で死んで、他に身寄りなくて、ずっと施設で暮らしてたんだよね」

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