472 / 605
番外編『愛すべき贈り物』21
祥悟の意外な真顔の告白に、雅紀は口から手を離すと、じっと祥悟を見つめた。
「12の時、俺らのモデル事務所の社長が会いに来たんだ。見てくれは悪くなかったから、モデルとして育てる為に、里沙はその社長に引き取られることになった。
俺はほっとしたんだ。どうせ15になったら施設を出なくちゃいけない。出た後の生活とか仕事とか、ずっと不安だったからね。俺は男だから何しても生きていける。でも里沙は女の子だ。施設出の子どもの生活なんて、厳しい現実ばっかだからね。変な世界に引き込まれて身を持ち崩したりしたら……って、俺は気が気じゃなかった。
離れ離れになるのは辛いけど、その社長さんはきちんとした人だったし、前に引き取られた子も幸せになってるって聞いてたから安心だった。
そしたら里沙、弟も一緒じゃなきゃ行かないって、社長に泣いて縋ってさ。社長は男の子は要らないって言ったけど、あいつ頑として承知しなくてさ。社長が根負けして、俺も一緒に引き取ってくれた。養子にしてもらってさ、レッスン受けさせてもらって、俺と里沙は双子モデルとしてデビュー出来た。だから今、俺がこうしてまともに生きていけてるのは、里沙のお陰なんだよね」
目を潤ませ始めた雅紀に、祥悟はふふっと微笑んで
「恩返し、したいんだ。里沙には誰よりも幸せになって欲しい。もしさ、暁くんがどうしても、里沙のこと愛せないっていうなら、仕方ないんだ。里沙は諦めるべきだよね。でも、せめて暁くんに本当の気持ち、ちゃんと伝えてさ、はっきり振られる方がいい。この先、きちんと前を向くためにね」
「……前を……向くために……」
「君も多分、いろいろと訳ありなんだよね。分かるよ、何となく。俺は君から一方的に、暁くんを取り上げるつもりはないんだ。ただ、里沙にも時間を少しあげてやってくれないかな」
雅紀は眉を八の字にして、しばらく黙って祥悟の顔を見つめた。
暁の気持ちを疑ったり、試したりするようなことは、本当にしたくないのだ。
でも……そういう事情なら、自分は協力するべきなのかもしれない。
祥悟は強引な所があるが、里沙に幸せになって欲しいと言った時の彼の目は、すごく切なくて必死だった。里沙と暁の時間作りに自分が協力したからといって、別に暁を騙したり嘘をつく訳じゃない。
暁は恐らく、里沙を選ばないだろう。でも、祥悟の言う通り、暁にだって将来を真剣に考えて、道を選ぶ権利がある。
どんな道を選ぶとしても、それが暁にとって幸せなら、本望だ。
「……俺……どんな風に協力、すればいいんですか?」
雅紀の言葉に、祥悟は嬉しそうに微笑んで、すっと耳に唇を寄せ
「ありがと。じゃあさ……」
祥悟が耳元に囁く内容に、雅紀はじわっと顔を赤くして目を見開いた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




