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想い想われふりまわされて4
桜さんの厳しい書類チェックも無事済んで、喫煙スペースで煙草を吸いながら、さっきのメモを睨み付けていたら、スマホがラインの着信を告げた。
―お仕事、お疲れ様です
……お。雅紀だ。
急いでラインを開く。
―俺、○○駅近くのビジホに、荷物置きっぱなしで
―これからちょっと、取りに行ってきます
暁は慌てて、文字を打つ。
―待て。もうすぐ終わるから
それだけ送ると、ラインを閉じて、雅紀に電話をかける。たっぷり5コールかかって、ようやく雅紀が出た。
「……もしもし?」
「今、どこ?」
「あっあっ、あの、暁……さん?」
「うん、俺。おまえ今さ、どこにいんの?」
「え……っと、まだ暁さんの部屋。これから出ようと…」
「俺、仕事もうすぐ終わるんだよ。ビジホ、○○駅だよな。んじゃ車でおまえ拾って、一緒に行くから。そのまま待ってな」
「えっでも悪いし、俺1人で…」
「ダーメ。俺が一緒に行きたいの。嫌か?」
「やっ、嫌じゃないからっ」
「んじゃ決まりな。下に着いたらまた連絡するよ。じゃあな」
暁は、うきうきしながら電話を切ると、手に持っていたメモを見て、少し悩んでから
……嫌なことはとっとと終わらせて、雅紀を迎えに行くか~。
そのまま、自分のスマホで、メモに書かれた桐島の番号に電話をかけた。
……暁さん……どうしたんだろ……さっきからずっと、なんだか難しい顔して、黙ってるけど……。
雅紀は、ちらっと運転席の暁を見て、またすぐに、自分の膝に視線を落とした。
……仕事で疲れてるのに、無理させちゃったのかな……。昼間のうちに自分1人で、取りに行っとけば良かった……。
「あの……暁さん?」
「なぁ、雅紀?」
言葉が重なり、雅紀は慌てて
「あっ、えーと、何?」
「んー……おまえさ」
「うん…」
「そのビジホって、いつまで泊まる予定してた?」
「え……あの……日曜日まで……です」
「そっか…」
暁は、煙草に火をつけて、窓を少し空けると、ゆっくり吸い込み煙を吐き出した。また暁が考え込み始め、車内に重い空気が漂う。雅紀が沈黙に耐えられなくなって、口を開きかけると、
「あのな……さっきおまえとの電話の後で、一件アポ入っちまってさ」
「え?」
「これからちょっと、人と会わなきゃいけねえんだよ」
「あー……お仕事?」
暁は、苦虫を潰したような顔をして
「そ。お仕事。急ぎの依頼らしくてな。……で」
「あ、じゃあ俺、ビジホで降ろしてもらったら、荷物取って、自分で暁さんの部屋まで帰ります。あ、そっか、暁さん明日も仕事忙しいなら、俺そのまま予定通りビジホに…」
「いやっ待て待て。そうじゃねえから。人と会って話はするけど、せいぜい1時間もあれば終わると思う。んで、依頼受けても、それ仕事として引き受けるかどうかは、俺の一存じゃなくてさ、社長にあげてみての指示待ちだから。俺、明日は予定通り休みだし、すぐ動く内容なら、俺じゃなくても他に人いるしな」
「そうなんですか…」
「でさ、……悪いけどおまえ、俺が話終わるまで、ビジホの部屋で待っててくんねーか?終わったらすぐ、迎え行くから」
申し訳なさそうな顔の暁に、雅紀はにっこり微笑んで、
「うん。わかった。待ってます」
「悪いな。なんかバタバタしちまって。待たせてばっかで」
「ううん、全然。俺のことは気にしないで、暁さんは仕事してください。俺、ちゃんと大人しく待ってますから」
「んーーいい子。後でたっぷりご褒美やるからなぁ」
暁が嬉しそうに頭をわしわし撫でると、雅紀は嫌そうな顔をして、窓の方へ身を寄せ
「ご褒美って……。俺、犬ですか」
「いーや。どっちかっていうと、可愛いにゃんこ」
「や、どっちもやだから、それ。ちょっと暁さん、やめてっ。危ないからっ。運転に集中してくださいって」
雅紀をビジホで降ろすと、そのまま車で、ひと駅隣の指定されたホテルに向かった。
本当は、雅紀も連れていって、近くで待っててもらいたかったが、相手はあの桐島だ。雅紀とどうやら親しいらしいし、またこないだみたいなことになるのは御免だ。
……相変わらず、なんつーか嫌なヤローだな。勿体ぶった言い方ばっかしやがって。
ま、俺を紹介してくれた社長の顔、潰すわけいかねーし、仕事だ仕事。我慢して付き合うしかねえだろ。
暁はため息をついて、煙草を灰皿にねじこむと、ビジネスバッグを持って、車から降りた。
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