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番外編『愛すべき贈り物』29
里沙の付き添いを終えてマンションに戻ると、一足先に帰っていた暁が出迎えてくれた。
今年は8月に入ってから、急に暑さが厳しくなった。夜になっても気温は下がらず、むわっとする酷い湿気だ。
冬生まれの雅紀は、もともと暑さに弱いのだが、今日の蒸し暑さはいつにも増して堪えた。汗でへばりついたシャツの感触や、内にこもる熱にうんざりする。へとへとになって部屋に辿り着くと、既に風呂に入ったのか、さっぱりした様子の暁が、優しい笑顔で「おかえり」と言ってくれる。
……こういうの、至福っていうのかもしれない……。
孤独に震えながらも、人と深く交わるのが怖くて、独りで生きて行こうと決めていた頃には、こんな幸せが自分にも持てるなんて、予想も出来なかった。
思わず、へにょんと情けない顔をすると、暁はにかっと笑って
「そろそろ着くだろうと思ってさ、風呂沸かしてあるぜ。まずはひとっぷろ浴びて、さっぱりしろよ。飯は食ってきたんだよな?」
「うん。里沙さんと軽く食べてきた」
「んーOK。冷たいデザート作っといてやったからさ。さっぱりしたら一緒に食おうぜ」
暁の言葉に、雅紀は頬をゆるませた。
「わ……冷たいデザート? 何だろ。すっごい楽しみだぁ」
「だろ? ほれ、突っ立ってないで、そのまんま風呂場に直行な」
暁に促されて、雅紀はこくこく頷くと、玄関から直接、脱衣場に向かった。暁は雅紀から受け取ったバッグを持って、リビングへ戻っていく。
夏前に越したばかりの新居は、暁の希望通り、風呂場がかなり広い。暁いわく、もっと広いのが良かった……らしいのだが、ここだって、2人で使うには充分過ぎる広さだ。
汗でべたべたのシャツを脱ぎ捨て、スラックスとトランクスと靴下も脱いで、脱衣カゴに放り込む。浴室でまずシャワーを浴びると、それだけでかなり不快感が消えてさっぱりした。
……気持ちいい……。
シャンプーで頭をごしごし洗ってから、ボディソープをスポンジに出す。全身くまなく洗ってシャワーで流すと、生き返った気分になった。
暁が気をきかせて浴槽に張っておいてくれたお湯は、熱すぎず温すぎず、ちょうどいい湯加減だ。湯船にゆっくりと浸かると、雅紀は思わず、ほおっとため息をついた。
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