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番外編『愛すべき贈り物』35

「おまえさ、まじで美人度あがったよな。脚とか前よりすべすべになってねえ?」 そう言いながらどさくさに紛れて、暁が太腿をさわさわと撫でると、雅紀は擽ったそうに身を捩り 「あのね、俺、多分、エステのお姉さんたちに遊ばれてるかも」 「は? なんだよ、それ」 雅紀は何か思い出したのか、きゅーっと顰めっ面をして 「無料体験だから~って、最初の診断の時より、いろんな項目増えてるんですよね。手足の脱毛とかネイルケアとか」 ……あー……なるほどな。 なにしろ無自覚だけど飛びっきりの美人さんなのだ、こいつは。エステの女どもがきゃいきゃい言いながら、雅紀の施術を楽しんでる様子が、容易に想像出来た。 「ま。いんじゃね? ただで綺麗にしてもらえるんならさ」 雅紀はまた暁の胸にすりすりすると 「ね。明日、暁さんは何時に出発?」 「ん? あー……新幹線は10時過ぎのだぜ」 「……そう……」 暁は雅紀の身体をぐいっと抱き寄せた。 「1人になんの、不安ならさ、やっぱおまえも有給取って、俺についてくりゃいいじゃん?」 いつもなら、ベタベタする暁に文句を言う雅紀が、こうして自分から懐いてくるのは、恐らく不安からくる情緒不安定だ。 明日、暁は出張で関西に1泊する。一緒にここに暮らして初めての、別々に過ごす夜なのだ。 「んー……そういうわけには、いかないです。俺、明日はお客様との打ち合わせと、家庭訪問があるし」 「ああ、狭山のおばあちゃんか。んじゃ、それ終わったら来いよ。俺らが泊まるホテルに先に行って、待っててくれりゃいいしさ」 暁がそう言って顔を覗き込むと、雅紀の目が揺らめいた。 「な? 後から来いよ」 微笑む暁に、雅紀は悩み顔になり 「ううん。今回は俺、大人しく留守番してます」 「なんでだよ?」 「だって……子供じゃないんだし、いっつも暁さんにへばりついてたら、やっぱダメだと思うし……」 本当は一緒に行きたい。そう雅紀の顔に書いてある。でも雅紀なりに、暁と離れて過ごす時間も作らなくては、と思っているのだろう。 「夜さ、1人でこのマンションで、過ごせるか?」 暁が心配そうに頭を撫でると、雅紀はきゅっと唇を引き結び、こくんと頷いた。 「うん。大丈夫。俺、平気です。1晩だけでしょ? 心配しないで、暁さんお仕事、行ってきてください」 「そっか……。んじゃ、留守は任せたぜ」 髪の毛をくしゃっとすると、雅紀はぎこちなく微笑んだ。

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