490 / 605

番外編『愛すべき贈り物』39

「だからー。憶測で物言うなっつの。いいから黙れよ。その話はもう終わりだ」 「暁くんはそれでいいかも?だけど、雅紀はこだわってるよ。だから君に愛されてる自信、持てないでいるんだと思うね」 暁の怒りに気づいていないはずはないのに、祥悟はしつこく食い下がる。暁がいらっとして口を開きかけた時、黙って聞いていた里沙が 「祥、もう黙って。暁、ごめんなさい」 「里沙、いいからおまえは口出すな。いいか?祥悟。人にはそれぞれ触れて欲しくねえもんってのがあるだろ。興味本位でそういうの、話題にするってんなら、俺はこの仕事、もうおりるぜ。すっげー不愉快だ」 里沙の言葉を遮り、怒りをあらわにする暁に、祥悟は怯みもせず淡々と 「興味本位のつもり、ないんだけどな。俺にとっても、雅紀はもう大切な友人だよ。だからあえて暁くんに聞きたいんだよね。君が雅紀のこと、どれだけ真剣にきちんと考えてるのか」 「は?おまえ、さっきから何言ってんだ。どういう意味だよ」 「記憶なくしてた君が、雅紀と会って、いろんな事件や事故が起きて、それ一緒に乗り越えてさ、辛い思いもしたけど、ようやく記憶も取り戻して、命の危険と隣り合わせの日々からも開放されて。君と雅紀から聞いた話をまとめると、こんな感じだよね」 「……そうだな。随分と乱暴で簡単過ぎるまとめ方だけどな。大筋は間違っちゃいねーよ」 「君は、事故で大切な記憶をうしなってた。雅紀は、ストーカーの被害に遭って、追い詰められてた。2人とも、非日常的な精神状態だったわけだよね。その上、一緒にいる間に、危険や恐怖を経験してって、ある意味ものすごく特殊な状態にいたわけでしょ」 「……」 祥悟が何を言いたいのか、なんとなく分かってきて、暁は答えるのを止めた。眉を顰めたまま、相槌も打たずに、祥悟を睨みつける。 「恋愛初めの心理状態ってさ、一種の非日常だよね。誰でも最初は浮かれた気分になるし、些細なことがものすごく大袈裟に感じたり、ドキドキしたり、すごく刺激的だよ。君が雅紀と過ごした数カ月は、君が命を狙われてたりして、更に普通の心理状態じゃなかった」 暁は、はぁっとため息をついて、 「つまりおまえはさ、俺が、勘違いしてるんじゃねーか?って言いたいわけか。俺が雅紀と恋愛してんのは、なんつーの?吊り橋効果……だっけか。そういう不安とか恐怖みたいなの、共有することで生まれちまう感情だって言いてえわけだな?」 祥悟はそれには答えず、黙って首を傾げた。 暁はコーヒーをひと口飲んで 「俺がおまえや里沙に話したこと以外に、雅紀からどんなこと聞いてんのか分かんねえけどな。ひとつだけ、はっきり言えることがある。祥悟、おまえのその考えはさ、俺と雅紀が積み上げてきた日々のこと、中途半端に聞きかじって、勝手に臆測してるだけだぜ。浅いんだよ」 声を荒げもせずに話す暁に、祥悟は黙って頷いている。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!