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第20章 言いたいこと。言えないこと。1
なんだか情けない顔をして聞いてきた暁に、雅紀はキョトンとして
「え……ひくって……俺が?」
「そ。俺がバイだと、おまえひく?」
雅紀はますますポカンとして
「その質問、意味わかんない。暁さん、変です」
「なんで変だよ」
「だって……男の俺相手にあんだけしておいて、今さらその質問って…」
「んーそういうもんか?」
雅紀は堪えきれずに笑い出し
「ひくならもっと前に……キスされた時点でひいてますよ。ここまできて、バイだったって聞いたくらいでひくとか……俺どんなヤツですか」
「ああ……まあ……そりゃそっか」
「暁さん、俺とキスして……他にもその……いろいろ……して、それで目覚めちゃったって……こと?」
雅紀に聞かれて、暁はバツが悪そうに目を逸らし
「まぁ、そういうこと、なんだろな。や、でもさ、あくまでおまえ限定な。他の男とか、どう考えてもないわー。うん、ないない」
「………俺……だけ?」
「そ。エロくて可愛いおまえだけ」
暁の言葉に、雅紀は何故か急に真っ赤になって、ぷいっとそっぽを向く。
「なあ……雅紀」
「な…、に?」
「俺はおまえだけなんだからさ、おまえも俺以外の男にああゆうのダメな」
「ああゆうのって…」
「エロい顔して誘ったり、エロい声であんあん鳴いたり」
「しっしないからっ。そんなことしてないしっ」
「おいっ。おまえ~自覚ないとか言うなよ~。ちょっと心配になってくんな。……つかさ、俺がバイってことは、おまえもバイなわけだろ?」
「えっ…」
雅紀はギクッとして暁を見上げた。
「だってそういうことだろ?おまえもさ、俺として目覚めちまったってことだろ?」
今度は雅紀が言葉を詰まらせ、目を泳がせた。暁は眉を潜め
「もしかしてさ……おまえ……俺以外にも経験あり?男と」
雅紀は違うと言おうとして口を開きかけ、じっと見つめてくる暁と目があって…言えなくなった。
それまでの甘い雰囲気が嘘みたいに、哀しい目をして口を閉ざした雅紀に、暁は何かを感じたのか、表情を和らげ、
「ま、いいさ。過去のことはお互いさ、まあいろいろあんだろ。俺だって清廉潔白とは到底言えないからな」
優しく微笑む暁に、雅紀は耐えきれずに目を伏せた。
「んな哀しい顔、すんなって。しょうもないこと聞いて、悪かったな」
頭を優しく撫でられて、雅紀は唇を噛み締めると、意を決して口を開く。
「たぶん……暁さん、ひく。俺の話、聞いたら」
「……それって、おまえが激痩せした事情にも関係あることか?」
雅紀の伏せた睫毛がふるふる震える。
「うん。……たぶん……俺のこと嫌いになる。軽蔑……すると思う」
「あのさ。おまえ自分から望んで、わざとそんな状況になったわけ?」
「ちがっ。違うっ。望んでないっ。でも…」
暁は優しく髪を撫で続けながら
「じゃあさ。そんなに自分、責めるなよ。俺はおまえが心配で、今回みたいに、辛そうな苦しそうなおまえは、見たくないだけだ。おまえが、そんなんなっちまう前に、俺に出来ることあったんじゃねーかって、悔やんでもいる。だからさ、話したくないことは言わなくていいから」
暁は雅紀の睫毛にそっとキスを落とし
「何があったのか……教えてくれないか?おまえがどんな状況なのかだけでも……知りたい。守ってやりたいんだよ」
雅紀は何度か口を開いては閉じ、やがて深呼吸すると躊躇いながら話し始めた。
「ストーカー……されてる……んです」
暁は眉をひそめた。雅紀は目を伏せたまま、ひきつった表情をしている。暁は、そっと雅紀の身体を起こして、脱ぎ捨てていた自分のシャツを羽織らせ、肩を抱いてやる。
「……相手は?」
「………」
「……具体的な被害は?」
「……あの、俺、大学の頃……やっぱりストーカーされて」
「うん」
雅紀は膝の上の手を、握りしめたり開いたりしている。
「相手は……先輩……だったんですけど」
「うん」
「文句言いに行ったら……薬盛られて、気がついたら、先輩の部屋で……ベッドに……縛られてて…」
そこまで言うと、雅紀は顔を歪め、口を手で覆った。
暁はぎゅっと肩を引き寄せる。
「抵抗できなくて……いろいろ……されて……なんか変な薬とか……たくさん使われて……俺、だんだん……わけがわかんなくなって…っ」
俯いて震え始めた雅紀の身体を、暁はぎゅうっと抱き締めた。
「わかった、もういい。それ以上は言わなくていいよ」
しがみついてくる雅紀の背中を、暁は優しく撫でた。
「……その先輩って……男?」
雅紀は無言で頷いた。身体の震えが酷い。
「そっか…」
……そういうことか…。
たった数日であんなにもやつれて、まるで生気を失ってしまっていたのは、その間に何かあったというよりも、昔の惨い記憶を、呼び覚ますキッカケになることが、起きたってことなんだろう。
どんな事情かとあれこれ考えてはいたが、予想をはるかに上回る酷い話だ。
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