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番外編『愛すべき贈り物』42

祥悟の指摘は、暁自身薄々気づいていたことだ。一緒にいて幸せそうにしている雅紀が、時折ひどく考え込んでいることがあったし、昨日、事務所で話していた時も、何か悩んでぐるぐるしていた。 ……俺が勘違いしてると、雅紀が思いたがってるってのは、目からウロコだったけどな……。 でも、あの雅紀ならば、そういう考えに陥っていても不思議はない。雅紀が病的に悲観的なのを、責める気持ちはもちろんない。あれだけ過去に傷を負っていれば、誰だって臆病になる。 ……さて。どうするか。 祥悟には、自分で何とかすると啖呵をきったが、何かいいアイディアがあるわけじゃない。雅紀がどんなに不安になっても、暁は今までと同じように、優しく側に寄り添って、雅紀の傷を癒していくだけだ。 ……あーあ。雅紀に会いてえな 今朝、先に出勤する雅紀を部屋の前で見送ってから、まだ3時間しか経ってないのに、無性に会いたくなっていた。 あの柔らかい髪の毛をわしわしして、華奢な身体を抱き締めてやりたい。 側にいることで安心して癒されているのは、自分の方かもしれない。もしかしたら、それを許される時間は、そう長くはないかもしれないのだから……。 不意に、胸の奥がざわめいた。俺のもう1人の分身、いや、この身体の本当の主が、何か言っている気がする。 暁は背もたれにどさっと身を任せ、腕を組んで目を瞑った。 ……お仕事……もう終わった頃かな……。 狭山のおばあさんのお家訪問を終えて、事務所に戻ると、雅紀は自分のデスクでパソコンを立ち上げ、報告書を作り始めた。 今日の外での仕事は終わりだ。後は報告書を作成して、他の調査員のデータを整理するだけ。ここでの仕事にも慣れて、自分1人で担当する案件も少しずつだが増えていた。暁の担当する浮気調査のような、本格的なものではないけど。 祥悟の撮影と取材の仕事は、お昼過ぎから数時間だと言っていた。途中、暁から画像とメッセージがラインで送られてきた。仕事の方は順調で、特にトラブルはなかったらしい。その後も、暁は折を見て、何回か画像やメッセージを送ってくれた。その場の状況が分かる写真と、暁らしい明るくて楽しいメッセージに、雅紀は見る度くすっと笑顔になった。 時計を見ると、今は午後5時過ぎ。そろそろ、暁から次のラインが来るかもしれない。

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