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番外編『愛すべき贈り物』43

朝、暁に見送られて先にマンションを出た。暁は一緒に出て、事務所まで送ると言ってくれたが、事務所から駅に向かうのは遠回りだからと断った。 1人で事務所に来て、顧客との打ち合わせの準備をして、古島と一緒に待ち合わせの店に向かった。もう1件、報告書を渡す為に客と会い、昼は古島とラーメンを食べてから、事務所に戻った。 午前中はバタバタしてて、暁が側にいない寂しさは忘れていたが、狭山のおばあさんの家に1人で向かう車の中では、暁のことばかり浮かんできて、切なくなった。暁からのラインが来る度に、嬉しいけど余計に想いは募って、早く顔を見たくて仕方なくなった。 ……こんなんで俺、今夜1人でマンションで過ごすとか、出来るのかな……。 よく考えてみると、あのマンションに引っ越してから、こんなに長く暁と離れていたのは初めてなのだ。昨夜、暁が1人で大丈夫か?と心配してくれた時は、子供じゃないんだから平気だって思っていたのに……。 ……甘えちゃってるよなぁ……。 暁と出逢う前、独りで生きていた頃の自分が、もう思い出せないくらい遠い。 スマホを取り出し、ラインを開く。あきらからの画像とメッセージを見て、また思わず笑みが零れた。 「なーに百面相しちゃってるのかな?」 上から声が降ってきて、雅紀は慌てて顔をあげた。斜め前から覗き込んでくる古島と目が合って、無防備な姿をばっちり見られていたのかと顔が熱くなる。 「や。べつにっなんでもっ」 焦る雅紀に古島は笑って 「さっきから、難しい顔したり笑ったり落ち込んだり。忙しいねえ、雅紀くん」 雅紀は、自分の頬を両手でぐにぐにして 「そんな顔してました?俺」 「うん。してたしてた。早瀬からのラインかな?」 雅紀は急いでラインを閉じると 「……っすいませんっ仕事中にっ」 「別に構わないよ。君はいつも頑張り過ぎだからね。何か飲むかい?ちょっと一服しようよ」 「あ。じゃあ俺、持ってきますよ。古島さん、何がいいですか?」 雅紀はそう言いながら立ち上がって、サーバーの方へ向かう。 「んー。じゃあホットカフェオレで」 雅紀は頷いて、古島の分と自分のアイスココアをカップに注ぐと、トレーに乗せて戻ってくる。古島はちゃっかり雅紀のデスクの隣の椅子に座り込み 「さんきゅ。あ、これ、お客さんからの差し入れね。食べて」 「ありがとうございます」 トレーを置き、古島に差し出された焼き菓子を、まだ赤い顔で受け取って、雅紀は腰をおろした。 「仕事終わったら、早瀬のところに行けばいいのに」

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