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番外編『愛すべき贈り物』44
「や。えーと。行かないです」
「ふふ。頑固だねえ。早瀬がね、ぼやいてたよ。ホテルで独り寝とか、超寂しいって」
「うわ。んもぉ……暁さん。古島さんにまで何言ってんだろ」
ますます顔を赤くして、ぷくっと頬を膨らます雅紀に、古島は探るように顔を見つめながら
「君は、寂しくない?」
「え……と。大丈夫です。ひと晩だけだし。小さな子どもじゃないんだから」
「違うよ。大人だから、寂しいんじゃない?早瀬も」
古島のちょっと意味あり気な言い方に、雅紀ははっとして古島の顔を見た。
「いろいろ考えちゃう大人だからこそ、離れてるのが不安で寂しい。君より早瀬の方が、案外精神的に弱いのかもね」
古島の言葉に、雅紀は目を丸くした。
「暁さんが弱い……俺より?」
「弱いっていうより、脆いっていうのかな。君より早瀬の方が、依存度高めだと思うよ。ああいう性格だから、それを決して表には出さない。でも結構病んでると思うんだよ。あいつは、闇の中にいる期間が長かったからね」
「……闇……?」
古島は頷いて、カフェオレを1口啜り
「6年間、彼は自分が守るべき誰かを、思い出さなきゃいけないっていう焦燥感を抱えてた。そして、いざ記憶が戻った時には、その守るべき人は既にいなかった。焦燥。喪失。無力感。自分の手から零れ落ちていく大切な存在。君は早瀬にとって、最後の砦なのかもね。絶対に守りたい、幸せにしたい存在としての」
「最後の……砦……」
「そ。君が思うより、君の存在は、早瀬の中で軽くはないんだよ。もしかしたらそれは、君にとってはちょっと、重たいことなのかもしれないけどね」
雅紀は古島から目を逸らし、手の中の焼き菓子をじっと見つめた。
……暁さんにとって俺は……絶対に守りたい、幸せにしたい、最後の砦。
そんな風に考えたことは、今までなかった。暁と出逢ってからずっと、自分が守られて支えられて、一方的に彼に頼りきってしまってると思っていた。自分が彼にとって、重荷なんじゃないかと心配もしていた。
でもそれは、自分の側から見た2人の関係で、暁から見る2人の関係は違っているのだろうか。
自分から甘えられたり頼られることで、暁の心は救われていたりするのだろうか。
前に、自分が貴弘の所に行こうとしていたのがバレた時、秋音に言われたことがある。
「俺の気持ちも考えてくれ」と。
「おまえが俺を守りたいと思うのと同じように、俺もおまえを守りたいと思ってるんだぞ」と。
あの時の秋音と同じように、暁もまた、思っているんだろうか。
「俺の気持ちも考えてくれ」と。
……暁さんの、気持ち……。
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