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言いたいこと。言えないこと。4

暁に連れて来られた公園は、大きな池のまわりに、いろいろな種類の桜が植えられていて、早咲きの桜は、もうちらほらと咲き始めていた。 染井吉野の蕾もふっくら膨らんで、今日のような陽気が続けば、じきに一気にほころぶだろう。 「こんな駅近に、桜がたくさん咲く公園……あったんだ……」 キョロキョロとあたりを見回しながら、雅紀が呟くと 「んーここさ、あの建物の周りが蓮池になっててな、大賀ハスっていう、桃みたいな可愛い花が咲くので有名なんだよ」 「ハス……?」 「ピンと来ないか?蓮根の花」 「ふ~ん……蓮根の花が、桃みたいに可愛いんですか……」 イメージが沸かないのか、まだ微妙な顔で首をかしげている雅紀に、暁はにやりとして 「ぽわ~んとピンクに頬染めてさ、おまえが感じきってる時の顔、みたいな花だよ」 「ばっ…」 雅紀は瞬時に赤くなり、慌てて周りに人がいないか確認してから 「ばっかじゃないの!?暁さんっ」 「おいっ。バカとはなんだよ~。ひでーなぁ」 「ひどいのは暁さんっ。も~ほんとヤダっこの人っ」 雅紀はぷりぷり怒りながら、カメラバッグを抱えてずんずん先に歩いて行く。 暁は首をすくめ、雅紀の後について歩き出した。 暁が指差した建物には、蓮池を観賞する為のベンチが、周りに配置されている。そのひとつに腰を降ろし、持ってきたタッパーを広げた。 暁の握った大きめだが、綺麗な三角のおにぎりと、小さめでちょっと歪な、雅紀の握ったおにぎり。 蓋を開けて、2種類のおにぎりが並んでいるのを見て、暁は顔をほころばせた。 自己申告通り、雅紀は不器用だった。ちょっとやそっとコツを教えたくらいでは、簡単に上達出来そうにないくらいに……。 ……慎重そうだし、手先器用そうに見えんのに。案外そそっかしいんだよなぁ。 キッチンであたふたしていた雅紀を思い出して、にやにやしていると、横から視線を感じた。 雅紀が物言いたげに、じとー……っと見ている。なかなかに痛い視線だ。 ……やべっ。ようやく機嫌なおったのに、また拗ねるっ。 「やっぱいいよなぁ、手作り弁当。愛情たっぷりって感じしねぇ?」 他のタッパーの蓋も開けてみる。 「お~。ウィンナー旨そうっ。炒め加減、絶妙じゃん?」 隣の、ぼろぼろになって、ちょっと焦げたハンバーグについては言及しない。 それが気に入らなかったのか、雅紀はますます眉を寄せ、無言の視線を送ってくる。 「あ。この厚焼き卵っ。おまえ上達早いよなぁ。ちょっとコツつかんだらさ、朝のとは別物みたいに綺麗に焼けたじゃん」 これは本当だ。焼き加減も形もすごく綺麗だった。 ただ……焼いてる最中の雅紀の手つきがかなり危なっかしくて、火傷しやしないかと、ハラハラさせられたことについては、あえて言わない。 雅紀の顔が嬉しそうにほころんだ。ちょっと得意気な表情で、厚焼き卵を見つめている。 ……おっと、こっちが正解かよ。つか、これって、新妻の初料理に気ぃ遣ってる旦那の心境だろ……。 にこにこしてる雅紀と目があった。 ……ま、いいや。可愛いし。 「腹減ったし食うかっ」 暁の言葉に頷いて、雅紀は両手を合わせてから、暁の握ったおにぎりに、真っ先に手をのばした。 食後の一服を楽しみながら、暁は蓮池をのぞきこんでいる雅紀を眺めていた。 「おい。そんなに身ぃ乗り出したら落ちるぞー」 「大丈夫、子供じゃないんだから。ね、暁さん、このくるくるしてるのがハス?」 「それが浮き葉な。それが開いてさ、水面が葉っぱで埋まっていくんだ。茎が伸びて立ち葉が出揃うと見事な光景だぜ。妖精の傘みたいな綺麗な葉っぱがさ、緑色の波みたいに揺れて見えてさ」 「ふ~ん……こんな水の中から茎が出て花が咲くんだ……。この池だけ見てると……可愛い花っていうの、ちょっと想像出来ない…」 「たしかにな。冬枯れの蓮池なんか見たら、もっとイメージ湧かないぜ。ま、あれはあれで、被写体としては面白いけどな」 雅紀は池をのぞきこむのを止めて、暁の側まで戻って来た。 「暁さんの撮ったハスの写真って、あのアルバムの中にありました?」 暁の隣に腰を降ろし、煙草をくわえて火をつける。 「どうだったかなぁ……?パソコンの中になら多分あるぜ。それかデータボックスの中かな」 「部屋に戻ったら見てみてもいい?」 「もちろん。ところでさ。ちょっと現実的な話、いいか?」 暁の言葉に、雅紀の表情が改まる。 「あ……はい」 「おまえ、会社はいつまで休み?」 「今日まで……です」 「んじゃ明日から仕事行くんだな。ビジホはたしか今日まで予約してたよな?」 「……はい」 「自分のアパートには……戻りたくないんだろ?」 雅紀は俯いて、指にはさんだ煙草を見つめた。 「戻りたくはないけど……このままビジホに泊まり続ける訳にはいかないから……今日は帰る……つもり」

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