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番外編『愛すべき贈り物』49
『篠宮くん、急で悪いんだがな、暁の応援で今から向こうに行ってくれるか?』
田澤社長の一言で、雅紀は今、新幹線の中にいる。
依頼された里沙のストーカーの件では問題は起きてないが、祥悟が行方不明になっているらしい。暁がそっちの捜索で動くとなると、里沙の警護が手薄になる。誰か応援に人を寄越して欲しいと、暁から要請があった。
雅紀は駅で買った弁当を、もそもそ食べながら、電話の暁の声を思い出していた。
『祥悟のは事件性あるのか、まだ分かんねえんだ。単にあいつが、仕事バックれただけかもしんねえ。ただ、今回のは事務所的にもかなりデカい仕事だからな。明日の撮影に穴空けるわけにはいかねえんだと。
……ったく、祥のヤツ、どこ行っちまったんだか』
……祥悟さん、ほんと、どこ行っちゃったんだろ。何か事件に巻き込まれたとかじゃなきゃいいけど……。
事務所での仕事を終えたら、マンションに帰って、今夜は1人で寂しく過ごすつもりだったから、祥悟のことは心配だけど、暁の所に行けるのは嬉しい。
あと30分ほどで、新大阪駅に着く。在来線に乗り換えて数分で、暁の待つ大阪だ。
朝別れてからまだ半日しか経ってないのに、早く暁に会いたくて堪らなくなってる。
……あーぁ。俺って重症だな。
ちょっと離れていただけで、雅紀を補充させろ~っとぐいぐい抱き締めてくる暁を、もう馬鹿に出来ない。さっき事務所で古島と話したおかげで、余計に愛しさが募っていた。
1人で食べる駅弁は、全然美味しくない。前に仙台に暁と一緒に行った時に食べた駅弁は、本当に美味しかった。
雅紀は、持て余し気味にようやく食べ終えた幕の内弁当の蓋を閉じると、ポケットからスマホを取り出した。
ーあと40分ぐらいで着きます
暁にラインを送ってみる。ちょっと間があいて、既読がついた。
ーおう。疲れてるのにごめんな
ーううん、全然。祥悟さん、まだ見つかりません?
ーダメだな。連絡も取れねえ
ー大丈夫かな。何かトラブルに巻き込まれたんじゃないといいけど
ーいや。ホテルの従業員の話だとな、祥のヤツ、1人でこそっと出てったみたいだな。まあ、確信犯だろ。スポンサーとの食事会、めんどくさいってごねてたしな
ーそっか。どっか遊びに行っちゃったのかな
ー多分な。里沙のストーカー対策こっちに依頼しといて、勝手な真似しやがって。見つけたらあの野郎、ただじゃ置かねえ
ー里沙さんは大丈夫?
ーああ。こっちは心配要らねえよ。今のとこトラブルなしだ。
おまえ、駅まで迎えに行ってやりてえけど、里沙1人に出来ねえからさ
ーうん、わかってる。ホテルまでの地図、桜さんに貰ってるから、俺1人で行けます
ー悪いな。迷ったら電話してこいよ
ーうん。ありがとう。暁さん。早く会いたいです
ー俺もだよ。愛してるぜ、雅紀
雅紀は思わず微笑んで、ラインを閉じた。暁の声が聞こえてきそうだ。今度はポケットから、桜さんに渡されたホテルまでの地図を取り出した。
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