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番外編『愛すべき贈り物』50
在来線に乗り換えて4分ほどで大阪駅に着いた。地図に書いてあった出口を、案内板で確認してから歩き出す。
大阪には初めて来たのだが、すごい混雑ぶりだった。ちょうど帰宅時間なのか、どこもかしこも人でいっぱいだ。うっかり人波に流されてしまわないように、雅紀は表情を引き締めた。
無事に駅から出て、地図を確認しながら歩く。スマホのマップアプリを見ながらの方が分かりやすいわよ~っと桜さんに言われたが、以前このアプリに裏切られて、1時間ぐらい迷子状態で彷徨った苦い経験があるので、ルートが途中で勝手に変わらない地図の方が安心だった。
雑誌のインタビューも兼ねた祥悟たちの宿泊先は、駅から徒歩10分ぐらいのちょっとお洒落なホテルだ。出張で泊まる格安のビジホと違って、お値段もそれなりだが、暁の宿泊費用は祥悟持ちらしい。
目印の建物を確認しながら慎重に進む。
5分ほど歩いた所で、道の反対側の雑居ビルから出てきた人が目の端に入って、雅紀は思わず立ち止まった。
……え……?……今の……里沙さん……?
目を凝らしてその人物を探したが、雑居ビルの脇の狭い通りに入る後ろ姿だけが見えて、消えた。
ちらっと見た横顔は、里沙に似ていた。でも……違う。あの背格好は……
「っ祥悟さんだ……っ」
里沙は暁と一緒にホテルにいるから、こんな所を1人で歩いているはずがない。
……いけないっ。見失っちゃう
雅紀は咄嗟に道路の反対側に渡って、祥悟らしき人物の後を追った。
……おっせーな。もう着いてもいい頃だろ
暁はスマホでまた時間を確認すると、首を傾げた。
雅紀からのラインの内容だと、ここに辿り着く時間はとっくに過ぎている。
……駅前、ごちゃごちゃしてっからな。迷ったか?
前に新宿で待ち合わせた時、マップアプリで何を間違えたか、迷子になったヤツだ。
慎重な性格の割に、雅紀は結構ドジなのだ。
「遅いわよね、雅紀くん」
「んー?ああ。ひょっとすると迷子かもな」
暁は里沙に苦笑してみせて、雅紀に電話を掛けた。
『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為……』
暁の顔が険しくなる。里沙は身を乗り出して
「雅紀くん、出ないの?」
「この街中で、電波届かねえわけねえよな。充電切れたか?」
里沙は顔を強ばらせた。
「まさか……」
……そう、そのまさかだ。
嫌な予感がする。この仕事を始めてから、雅紀はスマホの充電が切れるのには神経質になって、携帯充電器を別に持ち歩いている。ただの迷子ならいいが、それなら向こうから電話してくるはずだ。
ラインを開いて試しに呼び掛けてみたが、送ったメッセージに既読はつかない。
「ヤバいな。なんかあったか」
暁の言葉に、里沙は青ざめて立ち上がった。
「暁、探しに行きましょっ」
「探すったってどこをだ?それにおまえは出るなよ、里沙。ここにいろ」
「でも」
「おまえは出歩いちゃだめだ。例のストーカーの件があるからな。それより里沙、マネージャー、呼べるか?」
「わかった。すぐ呼ぶわ」
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