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番外編『愛すべき贈り物』51

里沙をマネージャーに任せ、絶対にこの部屋のドアを誰にも開けるなと約束させて、暁はホテルを飛び出した。 雅紀の姿を目で探しながら、田澤社長に電話で緊急事態を連絡し、桜さんに、雅紀に持たせた地図のホテルまでのルートを確認した。 そのルートを逆に辿る。 周囲に目を配りながら、雅紀と祥悟に何回か電話してみた。相変わらず、どちらも無味乾燥なアナウンスが流れるだけだ。 祥悟の失踪と、雅紀の失踪。この2つに関連があるのかは、今の時点ではまだ分からない。 ただ、嫌な符牒だった。 雅紀に電話が繋がらず、ラインも通じない。この状態は前にもあった。瀧田に監禁された時だ。あの時も俺は、焼け付くような焦燥感に駆られながら、雅紀の無事を祈り、その所在を必死に探した。その瀧田は今、病院にいる。俺の命を狙っていた犯人も、既に捕まっている。雅紀に直接危害を加えそうな人物はいない。 だが、里沙がストーカーに狙われている。祥悟は双子の弟だ。もし、祥悟の失踪が自分の意思ではないのなら。祥悟が消えたことと、雅紀の失踪とに繋がりがあるのなら……。 「くそっ。なんでまた、あいつを1人にしちまったんだっ」 里沙をマネージャーに任せて、雅紀を駅まで迎えに行けば良かったのだ。不安なら、タクシーを使えば大した時間もかからなかった。ちょっとの気の緩みで、また雅紀を辛い目に遭わせることにでもなったら……。 暁はぎりぎりと歯ぎしりしながら、駅までの道を血眼で雅紀の姿を探して走り回った。 「待って。祥悟さんっ、ねえ、祥悟さんでしょ?」 いったん見失ったが、ようやく追いついた。雅紀が縋るように後ろから声をかけると、その人物は驚いたように振り返る。 「は?なんで君がここにいるのさ?」 やっぱり祥悟だった。里沙が以前着ていたのとよく似た服を身に纏い、ご丁寧に髪型を変え、化粧までしてる。 「良かったぁ。やっぱり祥悟さんだったんだ」 祥悟は綺麗な眉をきゅーっと潜め、雅紀を睨みつける。 「なんで君、ここにいんの?やっぱり暁くんが恋しくて、後を追ってきたわけ?」 雅紀は首を竦めて 「違います。祥悟さんが行方不明って事務所に連絡入って、俺が応援で呼ばれたんですよ」 「ふぅん」 祥悟は胡乱気に、雅紀のほよんとした顔を見つめて 「ま、いいや。あのね、邪魔しないでくれる?俺、これからデートだから。じゃあね」 ひらひらと手を降って歩き出す祥悟に、雅紀は焦って追いすがる。 「えっあっちょっと待って、祥悟さんっっ」 雅紀に腕を掴まれて、面倒くさそうな顔で祥悟が振り返った。 「なに?」 「や、だって祥悟さん、里沙さんと暁さんが探してるんです、あなたのこと。黙っていなくなっちゃうなんてダメですよっ」 祥悟は嫌そうに顔を顰めて、 「んーじゃあさ。君が2人に報告しておいてよ。祥悟さんは無事でした。これからデートみたいですって」

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