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番外編『愛すべき贈り物』52

途端に、雅紀の表情が険しくなった。 「祥悟さん。俺、そういうのはダメだって思う。暁さんから聞きましたよ。大事なスポンサーさんとの食事会すっぽかして、突然いなくなったって。里沙さん、あなたと連絡取れなくて、ものすごい心配してる。無責任過ぎますよ。こんなの、大人のやることじゃない」 雅紀のキツい口調に、祥悟は意外そうな顔をした。 「へぇ……暁くんの後ろにいっつも隠れてる、大人しい仔猫ちゃんかと思ってたけど、君、なかなか言うねぇ」 雅紀にずいっと近づき、肩眉をあげて顔を寄せ 「俺にそんな口きいてさ、怖くないわけ?」 祥悟の凄んだ顔つきに、雅紀は思わず後ずさりかけたが、ぐっと堪えて足を踏ん張った。 「怖く、ないですよ。俺、間違ったこと言ってないし。それに、祥悟さんは理屈の通じない人じゃないでしょ。俺、あなたのこと、信じてます。きっと何か理由があったんですよね?今夜のあなたの行動には」 若干及び腰ながら、真っ直ぐに自分を見返す雅紀を、祥悟はしばらく無言で睨みつけていたが、やがてふっと表情を和らげ肩を竦めて 「なーんか調子狂うなぁ。俺のこと信じるって、いったい何を根拠に?君が俺の何を知ってるっていうのさ?」 祥悟はせせら笑いながら、雅紀の顎に手を伸ばし、くいっと顔を上げさせて 「俺ね、君みたいな優等生ぶりっ子って、昔からマジで嫌い。俺のこと、信じるっていうならさ、証拠を見せてよ」 「……証拠……?」 「そ。これから俺がやろうとしてること、黙って協力してくれる?質問も反論もなし。暁くんや里沙に連絡するのもダメ。俺のこと、信じてるっていうなら、それぐらいやってよ。出来ないなら、簡単にそういう綺麗事言うの、やめようね」 嘲り顔の祥悟を、雅紀はじっと見つめた。 いつも何かに苛立って、わざとひねくれた言い方をしたり、憎まれ口を叩いたり。でも俺は、祥悟さんの本気の本音を、あの時だけはものすごく感じた。この人はきっと、絶対に叶わない恋をしてる。暁さんに会う前の俺と同じ……いや、もしかしたらそれ以上の苦しい恋を……。 黙り込んでしまった雅紀に、祥悟は苦笑して 「手、離してよ。俺もう行かなくちゃ。約束の時間に遅れちゃうからね」 「俺が黙って協力したら、俺の言葉、信じてくれますか?本当のこと、教えてくれますか?」 雅紀の言葉に、祥悟は初めて真面目な顔つきになった。 「何するか聞きもせずに、俺に協力してくれるんだ?」 雅紀は神妙な顔で、こくんと頷いた。祥悟は手のひらを前に差し出して 「じゃあ、君のスマホ出して。電源切って俺が預かるから」

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