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番外編『愛すべき贈り物』53

……暁さん……きっと心配してる……よね。 狭い路地を先に歩く祥悟の背中を見つめながら、雅紀は内心ため息をついた。 ……出来れば連絡しておきたいけど……。 自分のスマホは祥悟が取り上げて電源を切ってしまった。 祥悟が何を考えていて、これからどこで何をするつもりなのかは分からない。……不安じゃないと言ったら嘘になる。でも、さっきはああでも言わなければ、祥悟を引き止めることは出来なかっただろう。 尾行が得意でない自分では、初めて来た街の繁華街で祥悟を見失ったら、再び探し出すのは難しい。さっき偶然彼を見つけられたのが奇跡なのだ。 それに……。 暁からのアドバイスで、万が一の事態に備えて、雅紀は祥悟に渡したのとは別に、緊急用の携帯電話をもうひとつ隠し持っている。通話したりメールを送ったりということは、この状況では出来ないかもしれないが、電源さえ入っていれば、GPSで自分のいる位置を探すことが出来る設定にしてあるのだ。電波の状況によっては、GPSが使えない可能性もあるが、暁がこちらの緊急事態に気づけば、きっとそれを活用してくれるはずだ。 ……大丈夫。俺は暁さんを信じて、祥悟さんを無事に里沙さんのとこに連れて帰る。 秋音や暁に守られるだけの存在にはなりたくないと、田澤に相談して、仕事の合間に護身術や空手の教室にも通っていた。子どもの頃に父に無理矢理通わされた時と違って、目的意識があるからか、荒っぽい習い事も昔ほど苦ではない。暁にはそんなことしなくていいと反対されそうな気がして、田澤に頼んで内緒にしてもらっているが……。 ……俺だって暁さんたちを守りたいし、もっと役に立ちたい。 鍛えても逆にほっそりしてしまう軟弱な身体だけど、最近は少し腕の筋肉がついてきた気がする。雅紀はシャツの上から、そっと自分の二の腕を触ってみた。 「雅紀、そろそろ目的地だけど。……あのさ、君って天然?それとも大物なのかな?俺に無理矢理付き合わされてるこの状況で、なんでにやにやしてられるのさ」 振り向いた祥悟が、微妙な顔で首を傾げている。雅紀は慌てて表情を引き締めた。 「目的地って……このお店?」 「そ。俺のデートの相手が指定してきたの。さ、入るよ」 洒落た洋館風の建物の入口には、蔦が絡まるお店の看板。どうやら隠れ家的なパブらしい。 さっさと店の入口に向かう祥悟に、雅紀は慌てて追いすがり 「ちょっと待って、祥悟さん。デートなのに俺が一緒についていってもいいんですか?」 「んー……まあ、相手は嫌がるかもね」 「えっと……じゃ、俺、別々に入りますか?」 「いや。一緒に来て。別々だと指定されてるの個室だから意味ないし」 「……個室……。あの、祥悟さん、これから会う相手って女性ですか?祥悟さんの……彼女?」 「質問はなしって言ったでしょ?ま、でも少しだけ説明しとこうかな。女性じゃないよ。男。年は俺と同じぐらいかな」 「男の人……。じゃあ、彼氏?」 祥悟は嫌そうに顔を歪めて 「違う違う。俺、あいつと付き合う気なんかないし」 「へ?……え……でも、祥悟さん、デートって」 頭の上に盛大に?マークを飛ばす雅紀に、祥悟は意味あり気に微笑むと 「説明は終わり。さ、行くよ。約束の時間過ぎちゃうからね。君は俺の側に黙ってついてて、適当に話合わせてくれればいいから」 祥悟はぴしゃりと話を終わらせると、まだ戸惑っている雅紀の腕を掴んで店のドアを開けた。

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