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番外編『愛すべき贈り物』54
『暁、篠宮くんの位置情報は追跡不能だ。電話もかけてみたが、電源入ってねえか電波が届かねえ場所だとよ』
「くそっ。社長、雅紀にはあっちの電源は切るなって言ってあるはずだ」
『なら建物の地下とか、どっか電波が遮断された場所ってことだな。あ、あとな、大胡さんに瀧田の病院確認してもらったけどな、瀧田は抜け出したりしてねえそうだ』
「……了解。じゃあそっちじゃないな。何かわかったら、また連絡ください」
暁は舌打ちしてスマホを切ると、また雅紀を探して歩き出した。
ホテルを出てからもう30分が経過している。スマホには何度も電話しているが、相変わらず繋がらない。雅紀がただの迷子じゃないのは間違いない。
……何処だ、雅紀。何があった?
瀧田の線でないなら、やはり祥悟の方か。それともまったく関係のない事件に、突発的に巻き込まれたか。
雅紀と祥悟の写真を、道行く人やタクシーの運転手に見せて目撃者を探す。焦燥感は募るが、苛立っても進展は見込めない。
「とにかく、虱潰しに目撃情報あたるしかねえな」
……雅紀。俺を信じてろよ。絶対に見つけ出してやるぜ。おまえは俺の運命の恋人なんだかんな。おまえを見つけ出せるのはいつだって、俺だけなんだよ。
……え……と……。
雅紀は目の前で繰り広げられる舌戦に、若干放心状態で固まっていた。
……これ、俺はどう介入したらいいんだろう……。
祥悟に半ば引き摺られるようにして店に入った。約束の個室は階段を降りた地下にあって、あ……まずいな、これだと電波届かないかも?と一瞬頭を過ぎったが、祥悟にがっしり腕を捕まれていて、どうしようもなかった。
地下は全て個室になっていて、重厚な扉を開けると、約束の相手は既に来ていた。
祥悟と同い年の男性ということだったが、なんと言ったらいいんだろう。隣の祥悟が若く見えるのか、目の前の男が老けて見えるのか、とても同い年には見えない。少し白髪混じりの長髪で、探るように長い前髪の隙間からこちらを見ている男と、目が合ってちょっとゾクッとした。……すごく嫌な感じだ。
「話が違う。里沙はどこだよ」
男の第一声は、外見に似つかわしくないちょっと甲高い声だった。
「連れてくるわけねーだろ。つーかさ、やっぱりおまえだったのかよ、克実」
祥悟はというと、部屋に入るなりどっかりとテーブルに座り、両手を組んで相手を見下した態度だ。パッと見、女性のような姿なのに、言葉遣いまで荒々しい。
男はじろじろと雅紀を見ていたが、祥悟の言葉に口の端を歪めて笑い、祥悟を睨めつけて
「里沙を呼べよ。やっと約束通り、迎えに来てやったんだ」
「はぁ? 何言ってんだか。里沙はおまえと約束なんかしてねーよ」
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