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番外編『愛すべき贈り物』55
嘲るような祥悟の言葉に、克実と呼ばれた男はせせら笑って
「祥悟。おまえとじゃ話にならないな。今すぐ里沙をここへ呼べ。でなきゃ帰れよ。弟のおまえなんかお呼びじゃないんだ」
「里沙は呼ばねーよ。これ以上、あいつに付きまとうなら、出るとこに出てもいいんだぞ」
一気に険悪な雰囲気になった2人に、雅紀はどうしていいのか途方に暮れて、おろおろと2人を見比べていた。
……うわぁ……これってまずいよな。俺、どうすれば……。
ってか、もしかしてこの人が、里沙さんにつきまとってたストーカー?
「里沙に会わせろ。あいつは俺の迎えをずっと待っていたんだ。本人と直接話をすれば分かることだ」
「おまえね~、頭いっちゃってんのかよ?里沙は近々結婚するんだよ。おまえなんかの入る余地はまったくねえの」
「……結婚……?」
克実が息を飲んで椅子から立ち上がった。傍で聞いていた雅紀も、びっくりして隣の祥悟の顔を見つめる。
「そ。あいつは今、その準備で忙しいんだ。おまえなんかに関わってる暇ねーの。分かる?」
「……っデタラメを言うなっ!」
怒鳴って机に拳を叩きつけた克実に、雅紀はびくっと飛び上がった。
……え……結婚?里沙さんが?そうなの?俺、初耳だけど……。
「嘘じゃねえよ。相手は今、おまえの目の前にいるだろ」
そう言って祥悟は隣に立ってる雅紀をくいくいっと指差した。
「……ぇっ」
雅紀は、思わず大声を出しかけて、祥悟に足を蹴られて、慌てて声を飲み込む。
……えっ。えーーー?俺?!
里沙の結婚相手は自分。それは有り得ない。とすれば、おそらく祥悟は自分に、この大嘘の共犯者になれと言ってるんだろう。それも随分無茶な話だが、もしそうなら、ここに来る前に一言相談して欲しかった。話を合わせるにしても、こんな不意打ちじゃ、どんな顔していいのかも分からない。
雅紀は顔が引き攣りそうになるのを必死で堪えて、真顔で克実の方を見た。
……うわぁ……こわいんだけど。
克実はものすごい形相で、雅紀の顔を睨みつけている。それはそうだろう。この人が里沙さんに付き纏ってるストーカーなら、自分は恋敵なのだ。
しばらく重苦しい沈黙が続いた。怖すぎて身じろぎも出来ない。
やがて、克実はふっとため息をついて首を竦め
「あのな、祥悟。どうせつくならもっとマシな嘘をつけよ。こんな女みたいな顔した、なよっちい男が里沙と結婚?冗談にも程がある」
……うわ。ちょっとそれ、傷つくんですけど……。
克実は馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
たしかに逞しいとは言えない自分だが、面と向かってはっきり言われると、かなりのショックだった。
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