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番外編『愛すべき贈り物』56
克実はにやにやしながら、雅紀の側まで近づいてくると
「君が里沙の結婚相手? 悪い冗談だよね。祥悟に頼まれて、こんなところまでのこのこ来たんだ? いったいいくら貰っているのかな?」
小馬鹿にした物言いに、雅紀はぐっと奥歯を噛み締めた。たしかにそれは嘘だけど、相手の気持ちも考えずに一方的につきまとって、里沙さんを困らせているこいつなんかに、こんなに馬鹿にされる筋合いはない。
「冗談なんかじゃないです。貴方の方こそ、里沙さ、いや、里沙に付きまとうの、止めてもらえますか? 迷惑です」
相当カチンときたせいか、声が震えることもなく、きっぱりと言いきれた。内心ほっとしたのも束の間、克実の形相がまた一変した。絞め殺してやりたい……と言わんばかりの怖い目で、雅紀の顔を覗き込んでくる。
……ちょっと、祥悟さん。言いっぱなしで俺に一任? 俺、このあとどうすれば……。
ちらっと見ると、祥悟は椅子にゆったり腰をおろして、まるで他人事のように傍観者を決め込んでいる。
「何なの? おまえ。つきまとうってどういう意味だよ。俺と里沙はな、施設で一緒に暮らしてた頃から、将来の約束を交わしている仲なんだよ。横からしゃしゃり出てきて、知ったような口きいてるんじゃねーよ」
携帯電話のGPSでは、位置情報が確認出来ずにいたが、虱潰しに当たっている聞き込みの方で、それらしき目撃情報を入手した。
情報をくれたのは、路駐していた流しのタクシーの運転手と、客引きをしていたホストたちだった。
タクシーの運転手は、道路の反対側に渡っていく、雅紀らしき人物を見ていた。
ひどく慌てた様子だったのと、男か女か分からないが、えらい別嬪さんだったのが印象的だったらしい。
……本人が聞いたら盛大に拗ねるだろうが。
ホストたちは、一緒に歩いている写真の2人に、直接声をかけていた。どちらも目立つ美形で、片方は女装していたが、愛読している雑誌のファッションモデルによく似ていたので印象に残ったらしい。
……祥悟の方は実際その雑誌で専属モデルをしているから、ほぼ間違いのない情報だ。
朝マンションを出る時に雅紀が着ていたのは、以前暁が買ってやったブルーグレーのパーカーだ。その服装も彼らの情報と一致した。
祥悟と雅紀は一緒にいる。
雅紀が1人で突発的なトラブルに巻き込まれたわけではないと分かって、少しほっとしたが、祥悟と一緒にいて連絡が取れない状態というのが、かなり引っかかる。
……あんの野郎……。雅紀を何処に連れていきやがった?
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