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番外編『愛すべき贈り物』57
タクシーの運転手に聞いて、入っていった路地裏を抜けた先で、ホストたちの情報を得た。
彼らが教えてくれた2人の行き先は、途中から道が大きく二手に分かれていて、暁はそこで一旦立ち止まった。
再び雅紀と祥悟のスマホに電話してみる。
……応答はなし。
辺りを見回してみるが、ここは駅前の繁華街からちょっと離れたオフィス街で、飲食店などは殆どない。この時間では人通りも疎らで、目撃者を見つけるのは難しそうだ。
念の為、田澤に電話してみたが、雅紀の携帯電話のGPSも反応なし。
手掛かりは途絶えてしまった。
「くそっ」
暁は舌打ちして、街路樹を拳で叩いた。
……何処だ。雅紀。何処にいる? 絶対に見つけ出してやるからな。頼むから無事でいてくれよ
雅紀は克実に胸ぐらを掴まれていた。祥悟は相変わらず、助けに入る気はないらしい。一応護身術や空手を習ってはいるが、雅紀は本来荒々しいことは得意ではない。
……どうしよう……。これ、振り払ったら余計に怒らせちゃうよね
「何とか言えよ。怖くて声も出ないのか?」
「や。声は出ます。っていうか、手、離してもらえませんか?」
「何だと?」
「俺、暴力は嫌いなんで。話をするのにこの手、必要ないですよね? あの、自己紹介、遅れましたけど、俺は篠宮雅紀です。初めまして。貴方もお名前、教えて頂けますか?」
胸ぐらを掴まれたまま、臆する様子もなく言う雅紀に、克実は毒気を抜かれたのか、ちょっと唖然とした顔になり、ちらっと祥悟の方を見た。祥悟も少し驚いたような顔で、克実と目を合わせてから、噴き出した。
「ほら、手、離して自己紹介しろってさ。ねえ、克実。おまえさ、子供の頃から喧嘩は滅法弱かったよね? 似合わないことすると、返り討ちに遭うよ。篠宮くん、全然強そうに見えないけど、空手の有段者だからねー」
くすくす笑う祥悟の言葉に、克実はちょっと怯んだ様子で、雅紀の顔をじっと見る。
……や。習ってるけど有段者じゃないし。祥悟さん、話盛りすぎ。しかも全然強そうに見えないってのは余計だから…。
雅紀は内心焦ったが、顔には出さないように苦労しながら、克実ににこっと笑いかけ
「とにかく、座って話、しませんか? ここ、飲み物とか頼めるんですよね?」
「………」
克実は胡散臭そうに、祥悟と雅紀を交互に睨みつけてから、ふんっと鼻を鳴らして手を離した。
……うわー。よかった……。バイオレンスにならなくて済んだ。
雅紀はシャツの襟元を直すと、右手右足が同時に出る若干ぎこちない動きで、祥悟の隣へ歩いて行き
「祥悟さん、ここってオーダーはどうやってするの?」
「さぁ? 俺、ここ来たの初めてだし?」
……むー。祥悟さんってば何その態度。ムカつく……。
「じゃ、俺、ちょっと外出て聞いてきます」
雅紀はぷっと頬を膨らませながら、ドアの方に向かった。
「あ……雅紀」
「え?」
振り返ると、祥悟がなんだか不安そうな顔をしていて
「……戻ってくんの?」
「え? や、お店の人呼んだらすぐ戻りますよ」
きょとんとする雅紀に、祥悟は何も答えず首を竦めた。
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