509 / 605

番外編『愛すべき贈り物』58

「ご注文は既に承っております」 薄暗い廊下に出て、うろうろと店員を探していると、階段の所でそれらしき黒服の男に出くわした。雅紀がオーダーについて尋ねると、黒服の男は慇懃無礼な態度で素っ気なく答えて、通り過ぎていこうとする。 「あの、えっと、じゃあ飲み物なんかは、もうオーダーしてるってことですか‍?」 追いすがる雅紀に、黒服は足を止め振り返ると、訝しげに雅紀を見つめて 「ご質問の意味が分かりかねます。ご予約を頂いた但馬克実さまからは、今宵は特別コースと承っておりますので、奥の別室のベルを押して頂くだけで結構でございますが」 「え……」 黒服はそれだけ言うと、またクルリと背を向けて去って行った。雅紀は頭の上に盛大に‍?マークを飛ばして、しばらくぼんやりと去っていく男を見つめていたが 「意味分かんないや」 呟いて、首を傾げながら、元いた部屋へと戻って行った。 ……もうオーダーしているんなら、あの克実って人、言ってくれればいいのに。ってか、奥に部屋とかあったんだ‍?そこのベルで注文とかするってこと‍? 個室に戻ってドアを開けると、雅紀は驚いて目を見開いた。 「え…‍…?……あれ‍?」 部屋を間違えたのかと、慌てて廊下に出て辺りを見回すが、確かにこの部屋だったはずだ。雅紀はもう1度、部屋に戻った。でもやっぱり居るはずの2人はそこにいない。 唖然としながらテーブルに近づくと、祥悟が座っていた椅子には、彼がつけていたストールがあった。 ……やっぱりここだよな。間違いない。2人ともどこ行っちゃったんだろ‍? 雅紀はキョロキョロと部屋の中を見回した。奥にもうひとつドアがある。さっきの黒服が言っていた奥の別室って、ここのことだろうか? 雅紀は首を傾げながら、奥のドアを恐る恐る開けた。 ……!‍? 目の前には、予想もしていなかった光景が広がっていた。 部屋の中央には天蓋付きの大きなベッドがある。そこに祥悟と克実がいた。 ……いや。正しくは、その2人と見知らぬ男が2人。 祥悟は男達にベッドに押さえつけられて、克実がその上にのしかかっている。 「っ……祥悟さんっっ!」 雅紀は咄嗟に叫んで、ベッドに駆け寄ろうとして……いきなり横から飛び出してきた手に、羽交い締めにされた。 「……っ」 振りほどこうともがくが、相手はかなりガタイのいい男で、そのままベッドの端にうつ伏せに押さえつけられて、口を塞がれた。 「ご主人様。こいつはどうします‍?」 「ああ。予定外だったけどそっちも僕の客だから。とりあえず、こっちの邪魔されると面倒だから、縛り上げといてくれるかな」 「承知致しました」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!