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番外編『愛すべき贈り物』60

「くっそ……っ」 暁はいらいらしながら、店の蔦の絡まる外塀を拳でがんっと叩いた。 雅紀の居場所を特定出来たのはいいが、会員制だというこの店の扉を開けると、慇懃な態度の黒服に会員証の提示を求められた。そんなもの持ってない、知人がこの店に来ているはずだから呼んでくれと言うと、鼻で笑われ丁重にお断りされた。 ……まあ、当然予測出来た反応だったけどな。 本人と会えるまではひかないとごねると、奥からいかにも用心棒的な屈強な男達が出てきて、がっちり取り囲まれた上で店から摘み出された。怪しげな噂のある秘密クラブならば、そう簡単に潜り込めるとは思っていない。だからこの展開も、想定の範囲内ではあったが。 道路に出て、田澤に電話する。もう1度馬鹿正直に正面から乗り込んでも埒はあかない。強行突破するにしても、どこかから忍び込むにしても、この店の内部情報が少なすぎる。田澤は広い情報網と人脈を駆使して、短い時間の間に、かなりの情報を集めてくれていた。桐島大胡にも応援を要請してくれたらしい。大胡はこの店の経営者に直接の伝手はないが、裏から手を回せる人物に、連絡を取ってくれていた。 『大胡さんの口利きでな、1人、そっちのシマに顔の利く男が応援に向かってくれてる。おまえは気に入らねえだろうがな、蛇の道は蛇だ。その男と協力して、篠宮くんを助け出せ』 「誰なんです? その男って」 『大迫恭亮。前に篠宮くんが瀧田に拉致られた時に、一緒にいた男だ。その会員制クラブはな、金持ち連中の特殊な性癖を満たす為の店なんだそうだ。表向きは社交クラブだが、裏では相当えげつない売春や人身オークションが行われているらしい。大迫はそこの裏の元締めと懇意なんだとよ』 ……大迫……。あいつかよ。あの変態調教師野郎っ。 暁は沸き起こる苦い思いに顔を歪めた。 大迫は、雅紀が瀧田に拉致された時、雇われ調教師として雅紀の身体を嬲った男だ。暁たちが踏み込んだ時、1人逃げ出そうとしていたのを田澤たちが拘束した。貴弘が刺され瀧田は心身喪失になり、雅紀の身にどんな薬を施されたのかを調べる為に、暁は病院で大迫と直接話をした。大迫は悪びれた様子もなく、雅紀にどんなことをしたのかを淡々と話したが、聞くに耐えないその内容に、暁は何度も大迫に掴みかかりそうになるのを、田澤たちに止められた。 ……あんのクソ野郎と協力なんて真っ平ごめん…と言ってやりてえが……。今は緊急事態だ。背に腹はかえられねえな。 暁は電話を切ると、待ち受けにしている雅紀のちょっと照れたような笑顔の画像を見つめた。 「どうだ‍? 祥悟。そろそろ効いてきただろう」 「……っく……っぁ……」

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