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番外編『愛すべき贈り物』63

……もぉ、全っ然ほどけないっ 室内に響く祥悟の苦しげな声が、雅紀の焦りを煽っていた。縛られた時は、そんなにきつそうでも複雑そうでもないように思えた革紐の結び目は、もがく度に締め付けがどんどんキツくなって、後ろ手の体勢ではまったく歯が立たない。 大きなベッドの端に転がされているから、男たちや祥悟の動きに合わせて、スプリングの揺れが伝わってくる。彼らに背を向けているので、姿は見えてないが、声や音はすぐ側から聞こえてくる。祥悟が彼らにどんなことをされているのか、知りたくなくても分かってしまう。 最初は威勢が良かった祥悟の喚き声は、徐々に呂律が回らなくなり、弱々しくなって、もはやほとんど意味をなさない喘ぎや嬌声に変わっていた。 雅紀は彼らに気付かれないように、そおっと手を動かしながら、部屋の中を見回した。 壁際に書棚と並んでライティングデスクがある。あそこまで移動出来れば、ペーパーナイフやハサミなどもありそうだが、彼らに気付かれずにそこまで辿り着くのは到底無理だろう。 ここを無事に切り抜けられたら、護身術だけじゃなくて、縄抜けの仕方も教わった方がいいかも……などと考えてみる。そんな現実逃避なことでも考えてないと、パニックになってしまいそうだった。 ……大丈夫。暁さんはきっと、俺や祥悟さんのこと、探してくれてる。だから俺は、今自分が出来る精一杯のことをしなくちゃ。パニックになってる場合じゃないんだ。 祥悟の声に、甘さや艶が増している。媚薬に完全に正気を奪われてしまったのだろう。 薬に冒されて強制的に快楽を引き出されていく……。その悔しさは誰よりも知っている。祥悟の声を聞いていると、瀧田や元カレにされた仕打ちの記憶が、鮮やかに甦ってきて吐き気がする。吐き気だけじゃない。胸が苦しくなってきて、息をするのが辛い。……これは過呼吸の症状だ。雅紀は必死に酷い記憶を振り払った。 ……だめっ。考えるな。思い出すな。落ち着いて、深呼吸。 大好きな暁の顔を思い浮かべてみた。優しくて頼もしい彼の笑顔。 ……暁さんっっ 「悪い。遅くなったな」 そう悪いとも思っていなさそうな表情で近づいてくる大迫に、暁は内心舌打ちして 「話はついてんだよな? とっとと乗り込むぜ」 苛立つ暁に大迫は片眉をあげ 「次から次へとあんたも大変だな。美人な恋人持つと」 「無駄口はいい。あんたほんとに顔が利くんだよな?」 「まあな。ここの裏やってる男とは長い付き合いだ」 「ここでもえげつない調教とやらをやってやがるのか?」 暁の突っ込みに大迫はニヤリと笑って 「無駄口叩いてる暇はないんだろ? さっさと救い出さないと、あんたの可愛い恋人が男共のおもちゃにされちまうぜ」 大迫はあごをくいっとあげると、店のドアを開けた。 完全に面白がってる大迫の態度に、暁は怒りを押し殺して後に続いた。

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