520 / 605
番外編『愛すべき贈り物』69
吐き気がする。息が苦しい。暁さん、助けてっっ
願いも虚しく、トランクスが引き下ろされた。剥き出しになった尻に、克実の手が伸びる。
「……!……何だ!?」
焦ったような克実の声に、雅紀ははっとして目を開けた。でも真っ暗で何も見えない。
……え……なに……?どうして……
「おい、どうした? 停電か?」
「調べてきます」
雅紀の身体を押さえつけていた手が離れた。すかさず飛び起きて逃げようとしたが、もう1人の男に羽交い締めにされる。
真っ暗な中で、バタバタバタと複数の人間の足音がする。ドアがバタンっと音を立てて開いた。
「火事です! すぐに避難してください」
誰かの声が響く。部屋に飛び込んでくる複数の人の気配。でもまっ暗闇で何も見えない。
「おいっどうなってるんだ!」
雅紀の耳に、克実の上擦った声が聞こえた。不意に羽交い締めにしていた男の手が離れる。
雅紀はすかさず飛び起きて、ベッドから降りようとした。でもまた、誰かの手が伸びてきて、抱き竦められた。
……っ!
必死にもがこうとする雅紀の耳元に、そっと囁く声。
「雅紀、俺だ」
「……っ」
……暁だ。間違いない。今、自分を抱き締めているのは、暁の優しい腕だ。
「ごめん、遅くなっちまった。もう大丈夫だぜ」
……暁さんっ暁さんっ暁さんっ
雅紀は全身から力が抜けて、愛しい恋人に縋り付いた。
「おい! どういうことだ!? 手を離せ! おい!」
喚く克実の声が遠ざかっていく。バタバタと闇の中を動く気配が、徐々に部屋から消えていく。
唐突に部屋の灯りがついた。
びくっと飛び上がる雅紀の身体に、布がふわりとかけられた。
突然の眩しさに目をしばしばしながら、雅紀は自分を抱き締める男の顔を必死に見上げる。
心配そうに自分を見つめる、大好きな恋人の、泣きそうな目。
……暁さんっっっ
雅紀の目から、堪えていた涙がぼろぼろと零れ落ちた。
暁は、しがみついてくる雅紀の細い身体を、ぎゅうっと強く抱き締めた。
「ごめんっ。もっと早く助けに来たかったんだけどな」
腕の中の雅紀が、うーうー唸りながら首を激しく振る。暁ははっとして腕を緩め、雅紀の顔を覗き込んだ。
「そっか。口塞がれてんのか」
声を奪われて、助けを求めることも出来ずにいたのだ。どれほどの恐怖だったろう。暁は込み上げてくる激しい怒りを押し殺し、雅紀の口に噛まされた革の猿轡の留め金を外してやった。
「っ暁さん!」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




